vol.231 カスタマーハラスメント ~ しっかり対策して会社と従業員を守る

最近よく聞く「カスタマーハラスメント」。
ポスターもいろいろな場所で張られており
駅、病院、役所などでも見かける機会が多くなりました。
「一般消費者が顧客ではない」という業種の方もいますが
一般消費者だけでなく、「顧客等」から受けるもの
すべてがカスタマーハラスメントになります。

2020年6月から施行された
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
及び職業生活の充実等に関する法律」によって、
パワハラの防止措置が会社に義務化されました。
そのためパワハラに関する知識や研修などは
社内で整備されていると思いますが、
カスハラに対しては、未着手という会社も多いと思います。

今回はカスタマーハラスメントとはどのようなものか、
会社側はどのような対策を講じていくのかを
確認していきます。

≪目次≫
カスタマーハラスメントとは
カスハラの事例
■ カスハラが会社に及ぼす影響
カスハラへの対応

■ カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」という。)は
「顧客等からのクレーム・言動のうち、
当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、
当該要求を実現するための手段・態様が
社会通念上不相当なものであって、
当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と 
厚生労働省の
「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」には
記載されています。
https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/001104928.pdf

昨今、モンスタークレーマーや
悪質クレーマーといった顧客が増えており、
その対応で、自社の従業員が長時間拘束されてしまったり、
体調を崩してしまう、といった状況が多く発生しています。

また、東京都は、公正かつ持続可能な社会の実現に寄与するため、
「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を制定しました。
(2025年4月1日施行)。
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuhara_jourei/index.html

このようなことから、今後
どの会社でもカスハラ対策は必要だと考えられています。

なおカスハラは、顧客や取引先等からの
クレームのすべてをさすものではありません。
顧客等から商品やサービス等の改善を求める
正当なクレームがある一方
過剰な要求を行うこと、不当な言いがかりをつけるなどを
「社会通念上不相当なもの」としてカスハラとしています。

■ カスハラの事例

カスハラの行為類型については
下記のようなものが想定されます。
(出典:東京都 「カスタマーハラスメントの防止に関する指針」
                       令和6年12月 P19~)
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin_slide0612.pdf

1.顧客等の要求内容が妥当性を欠く場合
(1)就業者が提供する商品やサービスに瑕疵や過失が認められない
 ・まったく欠陥がない商品を新しい商品に交換するよう要求すること 
 ・あらかじめ提示していたサービスが提供されたにもかかわらず
  再度同じサービスを提供しなおすよう要求すること
(2)要求内容が就業者の提供する商品、サービスの内容と関係がない
 ・就業者が販売した商品とは

  全く関係ない私物の故障等について賠償を要求すること
 ・就業者が販売する商品とは

  全く関係のない商品を販売するよう要求すること

2.要求内容の妥当性にかかわらず
 手段・態様が違法または社会通念上不相当である場合

(1)就業者への身体的な攻撃
 ・ものを投げつける、唾を吐く
(2)就業者への精神的な攻撃
 ・就業者やその親族に危害を加えるような言動を行う
 ・大声で執拗に責め立て、金銭等を要求する
 ・就業者の人格を否定するような言動を行う
 ・多数の人がいる前で名誉を傷つける言動を行う
(3)就業者への威圧的な言動
 ・声を荒げる、にらむ、話しながら物を叩く
 ・高圧的に自らの要求を主張する
 ・話の揚げ足をとって責め立てる
(4)就業者への執拗な言動
 ・必要以上に長時間にわたって厳しい叱責を繰り返す
 ・何度も電話をして自らの要求を繰り返す
(5)就業者を拘束する行動
 ・正当な理由なく長時間にわたって居座り続ける
 ・長時間、電話等で就業者を拘束する
 ・個室等で拘束し、長時間にわたって執拗に要求を繰り返す
(6)就業者への差別的な言動
 ・人種、職業、性的指向等に関する侮辱的な言動を行う
(7)就業者への性的な言動
 ・わいせつな言動や行為を行う
 ・つきまとい行為を行う
(8)就業者個人への攻撃や嫌がらせ
 ・服装や容姿等に関する中傷を行う
 ・名指しした中傷をSNS等において行う
 ・顔や名札等を撮影した画像を本人の許諾なく
  SNS等で公開すること

3.要求内容の妥当性を考慮した際、手段・態様が不相当である場合
(1)過度な商品交換の要求
 ・提供した商品と比較して著しく高額な商品や
  入手困難な商品と交換するよう要求すること
(2)過度な金銭補償の要求
 ・提供した商品、サービスと比較して
  著しく高額な金銭による補償を要求してくること
(3)過度な謝罪の要求
 ・正当な理由なく、上司や事業者の名前で
  謝罪文を書くよう要求すること
 ・正当な理由なく、自宅に来て謝罪するよう要求すること
(4)その他不可能な行為や抽象的な行為の要求
 ・法律を変えろ、子供を泣き止ませろ、などと要求すること
 ・誠意を見せろ、納得させろ、と抽象的な行為を要求すること

■ カスハラが会社に及ぼす影響

カスハラを放置することは、会社に深刻な問題を引き起こします。
カスハラによる影響は下記のようなものがあげられます。

1.労働者への影響
 ・生産性の低下
 ・体調不良
 ・現場対応への不安、休職や離職

2.会社への影響
 ・悪評からのブランドイメージの低下
 ・クレーム対応等の時間的浪費
 ・金銭的損失(代替品の提供や慰謝料等)
 ・労働者への安全配慮義務違反のおそれ

特に労働者への影響は、精神的な負荷の重さから
体調不良や精神疾患を招き
最悪の場合には退職を余儀なくされることもあります。
会社としては休職や退職をされると
業務が回らなくなる、人材の損失など
多大なる悪影響が出る可能性があります。

またクレーム対応に要する時間も
会社にとって負担となります。
顧客との直接の対応だけでなく、
社内の対応方針の検討や、状況に応じて警察や弁護士などへの
相談時間を含めると、かなりの時間と労力を有します。

さらに会社がカスハラに適切に対応できていない場合、
安全配慮義務違反として労働者から損害賠償を請求されたり、
カスハラに対して不適切な対応指示をした上司が
労働者から不法行為責任を追及される、等も考えられます。

そのためにも会社はしっかりと
カスハラ対策を講じる必要があります。

■ カスハラへの対応

もし、カスハラが起こってしまった場合、
会社はどのように対応すればよいのでしょうか。

【クレーム(カスハラ)が起こった場合】
1.現場での初期対応
誠意ある対応を念頭に、状況の正確な把握を行いましょう。
対応は1人ではなく複数名で行うことを基本とし、
状況が深刻であれば現場責任者が対応するなど、
労働者の安全にも配慮した体制作りが大切です。
また相手が感情的になっている場合が多いですが、
こちら側は感情的にはならず、丁寧な話し方で
冷静に対応し、よく話を聞きましょう。

2.カスハラかどうかの判断
カスハラの判断基準は法律で定められていないこともあり
会社ごとに異なります。
1つの尺度として、厚生労働省の資料では
以下の判断基準を挙げています。
・顧客等の要求内容に妥当性はあるか
・要求を実現するための手段・態様が
社会通念に照らして相当な範囲か
事実確認を行い、カスハラに該当するか否かを判断しましょう。
カスハラと判断した場合には、
毅然とした態度で接し、
必要であれば警察などとも連携して対応しましょう。

3.労働者への配慮
ひどい言葉や時には暴力を振るわれる場合があったりと
身体だけでなく心のケアも必要になってくる場面もあります。
労働者のメンタルヘルスに不調の兆しがあれば、
産業医などの専門家によるアフターケアも検討しておきましょう。

【カスハラ発生後、または発生前の対策】
1. カスハラ対応のマニュアルを作成する
顧客からの迷惑行為や不当な要求があった場合の
対応フロー等のマニュアルを作成しておき、
組織としての対応を徹底しましょう。
・対応プロセス、
・事案の記録、
・証拠化報告と社内での情報共有について、
・Q&A集の作成、などが挙げられます。

2.カスハラを許さないことを明言する
会社が「カスハラを許さない」という明確なメッセージを
発信し、労働者や顧客に対して
カスハラに対して毅然とした態度を取ることを明言することで
労働者が業務に集中しやすくなります。

3.相談窓口を設置する
カスハラ被害に遭った労働者が相談できる体制を明確にし、
周知しておきましょう。
相談窓口に連絡してアドバイスを受けることができれば、
迅速な対応をとって、労働者の心理的負担の緩和も
期待できるからです。
また、社内の関係部署だけでなく、
外部関係機関と連携できる体制を構築しておくことが
望ましいです。

4.カスハラ対策研修を行う
カスハラの被害に直面した際は、
労働者が冷静かつ適切に対処できる
スキルを習得することが重要です。
マニュアルを作成し、
具体的な対処法をトレーニングで学ばせましょう。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
   ここが知りたい! Q&A
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【Q.1】
正当なクレームとカスタマーハラスメントの違いは何でしょうか。

【A.1】
「要求の内容の妥当性」と「要求の伝え方(手段・態様)」だといえます。
正当なクレームは、商品やサービスに実際の問題があり、
顧客がその改善や補償を求める妥当な理由がある場合です。
たとえ顧客が怒っていたとしても、
その主張や要求が常識の範囲内であれば、
それは会社にとって真摯に対応すべき正当なクレームです。
一方、カスタマーハラスメントは要求内容が過度に不当な場合や
要求の伝え方が威圧的・攻撃的で社会通念上
不相当な場合を指します。

☆     ☆     ☆

【Q.2】
現場でカスタマーハラスメントが発生した場合、
労働者はどう対応すべきでしょうか。
また会社は自社の労働者に対し、どのように対応すべきでしょうか。

【A.2】
自社の労働者の方がカスハラに直面した際は、
自身の安全を最優先に、冷静かつ毅然と対応することが大切です。

・落ち着いて対応する
・複数人で対応する
・毅然とした態度で臨む
・危険を感じたら避難、通報する

このような対応があげられます。

会社は自社の労働者に対し、
カスハラと思われるような事案が発生した場合に
具体的にどのような対応を取るのか
会社でマニュアルを作成し、それに基づいて行動するよう
労働者に伝えておくことが必要です。
複数人で対応することや、
エスカレートした場合に本部や上長へ連絡するタイミング・判断基準
など、具体的な対応策を含めてマニュアルを作成しておきます。

また、カスハラの被害にあい、
精神的なダメージを受けた従業員に対しては
その後のケアも必要です。
専門医の紹介などを含めて
当該労働者への配慮も丁寧に行いましょう。