vol.218 天災事変に係る労働法の取り決め等

日本は地震や台風、大雪などの天災事変が多いですが
特に近年、日本全国で地震などの天災事変にあい
大変な思いをされている方がたくさんいらっしゃいます。
このような天災事変にあった場合、
労働法ではいくつか取り決めがありますので
その内容について確認していきます。

また被害にあわれた方については、ご本人が申請することで
保険料の免除等金銭的支援を受けられることがありますので、
今後もし被害にあってしまった労働者がいる場合には
その旨を会社から伝えてあげてください。

■ 天災事変に関連する労働法

近年、日本では今までに経験のないほどたくさんの
自然災害に見舞われ、
仕事をするどころか生活にも不自由されている方が
多くいらっしゃいます。
今後もそのリスクがないとは言い切れず、
各地で甚大な被害が起こる可能性は十分に考えられます。
災害に遭い、会社が休業せざるを得ない状況や
やむを得なく事業を閉鎖しなければならない場合等の
対応はどのようにすればよいのでしょうか。

(1)休業手当 労働基準法第26条

労働基準法第26条において、
使用者の責に帰すべき事由によって休業した場合、
休業期間中、労働者に対して
平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない、
とされています。
この手当を「休業手当」といいます。

自然災害においては、
「使用者の責に帰すべき事由」が主な論点となり
天災事変等の不可抗力の場合には
使用者の責に帰すべき事由に当たらず、
会社が休業手当を支払う義務は生じません。

不可抗力とは、次の2つの要件を備えたものとされています。
 ①その原因が事業の外部より発生した事故であること
 ②事業主が通常の経営者として最大限の注意を尽くしても
  なお避けることのできない事故であること

【休業手当不要とされる場合】
・台風の直撃等により、家から外に出ることすらできない
・公共交通機関が終日ストップし、交通手段がない
・地震等により当該事業場の施設・設備が直接的な被害を受けた場合
・停電により業務ができない場合
・会社から休業指示が出ていなかったが、
 労働者の自己判断により休んだ場合

【休業手当が必要とされる場合】
・会社の判断で休業や早退させた場合
・台風等による客足減少で休業させた場合

天災事変は不可抗力と認められる場合が多く、
一般的には休業手当の支払い不要とされていますが、
東日本大震災や新型コロナウイルス感染拡大時などは
厚生労働省より休業手当についてのQ&Aが発表されていましたので、
その都度、確認したほうがよいでしょう。

厚生労働省

令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/content/001186969.pdf
 

(2)非常時払 労働基準法第25条

労働基準法第25条では
「使用者は、労働者が出産、疾病、災害
その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために
請求する場合においては、支払期日前であっても、
既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」
としています。

そのため、災害時は労働基準法第25条の
「非常の場合の費用」に該当すると考えられ
労働者から請求があった場合には、賃金支払日前であっても
賃金を支払う必要があります。

(3)解雇 労働基準法第19条、第20条

労働基準法では労働者の解雇について
第19条
「業務上の負傷による怪我や疾病のために
休業する期間および仕事に復帰した後の30日間は、
原則として解雇することができない」

第20条
「労働者を解雇する場合、少なくとも30日前には
当該労働者に対して解雇することを予告するか、
解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を
支払わなければならない」

と記載されています。

これにより、即時解雇することはかなり難しくなっています。
ただし「天災事変その他やむを得ない事由のために
事業の継続が不可能となった場合」で、
労働基準監督署長の認定を受けたときはその限りではない
とも記載されています。

(4)時間外労働 労働基準法第33条

労働基準法第32条では、
1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められており、
これを超えて労働させる場合や、
労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は
4週間を通じ4日以上与えることとされている休日に
労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、
労働基準監督署への届出が必要となっています。

ただし、災害その他避けることのできない事由により
臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合は
労働基準法第33条第1項により、
使用者は、労働基準監督署長の許可
(事態が急迫している場合は事後の届出)により、
必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働を
させることができる、とされています。

この「災害時の時間外労働等」には、
適用の範囲や条件が細かく定められています。

1.適用範囲の確認
労働基準法第33条による「災害時の時間外労働等」は、
差し迫った理由がないときには適用できません。
事業の繁忙期など経営上時間外労働が必要となる場合、
通常予見される部分的な機械保守や整備は、
特例の対象外となっています。

2.適用の際の届出
「災害時の時間外労働等」を適用する場合には、
行政官庁の許可を得る必要があります。
所轄の労働基準監督署長に対して、
「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書・届」を提出しましょう。
この際、災害または危機を避けることができない事由に該当するかを
判断できる資料もあれば一緒に提出します。
ただし災害の予見が難しく、
事前に許可を取れない場合には、
事後に手続きをして承認を受けるようにしましょう。

3. 時間外労働等の割増賃金の支払いは必要
時間外労働、休日労働が認められる
「災害時の時間外労働等」であっても
割増賃金は支払わねばなりません。

(5)労災 天災地変

天災事変による災害が業務遂行中に発生したとしても、
業務起因性が認められない、として
不支給になる場合が原則です。

これは労働基準局の通達で、
「労災保険における業務災害とは、
労働者が事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと
経験法則上認められるものをいい、
具現化したものと経験いわゆる天災地変による災害の場合には
たとえ業務遂行中に発生したものであっても、
一般的に業務起因性は認められない」
(昭49.10.25基収2950)とあるためです。

ただし、「業務の性質や内容、作業条件や作業環境、
あるいは事業場施設の状況などからいって、
災害を被りやすい事情にある場合には、業務に伴う危険
(または事業主の支配下にあることに伴う危険)としての
性質を帯びてくる」(労災保険法コンメンタール)と
されていることから、労災と認められる場合もあります。

今までに自然災害に際して生じた災害ではあるが
労災と認められた事例をあげておきます。

・雨天の中での木造住宅建設作業に従事していた職人が
落雷により感電し死亡した
→屋外で作業する者が作業中に落雷による
被害を受けたものであり認定された。

・現場事業所がプレハブ小屋で、竜巻にあい死傷した
→現場事業所がプレハブ等の簡易構造のもので
「事業場施設の状況」から、
災害を被りやすい状況にあった

また阪神淡路大震災や東日本大震災など
甚大な被害をもたらした地震の際に
業務中に被災した場合には、労災を認めています。

このように勤務時間中の自然災害については
原則、労災認定されませんが
場合によっては認定されることがありますので
その都度、労働基準監督署へ確認を取ってください。

■ 社会保険料の免除、その他

天災事変等により、財産に相当な被害を受け、
国民健康保険料、国民保険料の納付が困難となった場合は、
ご本人からの申請に基づき、
保険料の徴収猶予、納期限の延長及び減免並びに
一部負担金の徴収猶予又は減免される制度があります。

~日本年金機構 国民年金保険料 免除のお知らせ~
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20141218.html

その他にも
・被保険者証(保険証)が手元になくても医療を受けられる
・雇用保険の失業給付を受給中の方は
 来所しなくても、失業の認定が受けられる場合がある

等があります。

また会社側も保険料の納付期限延長等もあります。
その都度、厚生労働省のホームページで発表されますので
そちらをご確認ください。

~厚生労働省 災害~
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055967.html

~厚生労働省 自然災害が発生した場合の支援や制度について~
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00177.html

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  ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
被災地外の場所で建設業を行っていますが、
自治体等からの要請を 受けて被災地内での災害復旧工事の応援に行きます。
この場合、時間外労働・休日労働は、
既に締結してある36協定について、
時間外労働の上限を超えることはできないのでしょうか。

【A.1】
令和6年4月より、
建設業も時間外労働の上限が定められており

(1)時間外労働が年720時間以内
(2)時間外労働と休日労働の合計が1か月 100時間
(3)時間外労働と休日労働の合計について、2~6か月平均 80時間以内
(4)時間外労働が月45時間をこえることができるのは年6回が限度

となっています。

このうち、災害時における復旧および復興の事業に限り
以下の2つは適用除外となっています。
(2)時間外労働と休日労働の合計が1か月 100時間
(3)時間外労働と休日労働の合計について、2~6か月平均 80時間以内

そのため、1か月100時間を超えること、
2~6か月の平均が80時間を超えること、は可能です。
ただし、(1)年720時間の上限 および

(4)時間外労働が月45時間を超えることができるのは6回まで
については適用となるため注意が必要です。

ご質問の、通常は被災地でない場所で事業を行っていても
災害復旧のための被災地へ出向き事業を行う場合にも、
(2)(3)は適用除外が認められ、違法とはされません。

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【Q.2】
労働者が年次有給休暇を取得したい、と言ってきたのですが、
その後災害がおきて
復旧作業等により業務が繁忙となったため
労働者が指定した日に年次有給休暇を与えることが
難しい状態です。
このような場合も指定した日に年次有給休暇を
与えなければならないのでしょうか。

【A.2】
年次有給休暇については、
労働者が請求する時季に与えなければならない、
と定められています(労働基準法第39条第5項本文)。

ただし、「労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが
事業の正常な運営を妨げる場合には、
使用者は他の時期に年次有給休暇を与えることができる」
と定められていますので、
災害に伴う災害復旧の業務等への対応を行うに当たって、
労働者が請求する時季に年次有給休暇を与えることが、
事業の正常な運営を妨げる状況にある場合には、
他の時期に与えることができます。

日付を変更できないかどうか、
どの程度ひっ迫した仕事があるかどうか
を労働者とよく話し合い、日程変更等が可能かどうかを判断してください。