Vol.220 就業規則と労使慣行

就業規則は、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、
職場内の規律などについて定めた職場における規則集です。
すでに作成されている会社が多いと思いますが、
法律はその時々で変更となるため、
その都度、就業規則も変更が必要となります。

今回は、就業規則に必ず記載しなければならない事項や、
どのような場合に作成が必要か、
また労使慣行についても確認していきます。

 就業規則とは

就業規則とは、従業員の賃金や労働時間などの労働条件、
職場内の規律など雇用に関するルールを
会社ごとにまとめた規程集です。
雇用側である会社と、雇用される側である従業員の双方において、
それぞれ守るべきルールが記載されています。
職場でのルールを定め、双方がそのルールを守ることによって、
従業員は安心して働くことができる上、
双方のあいだで起きるトラブルを回避できるのです。

常時10人以上を使用する事業場は
就業規則の作成が法律で定められており、
作成した就業規則は、労働基準監督署へ届出する必要があります。

「常時10人以上」とは、
正社員やアルバイト、パートなど、
雇用形態を問わず「常に雇用している従業員」が
10人以上いる状況を指します。
「繁忙期にだけアルバイトを雇ったときは10人以上だが、
繁忙期が過ぎた後は従業員が10人未満になる」等の場合は、
就業規則作成は義務ではありません。(労働基準法第89条)

なお、法人単位ではなく「事業場」単位で人数を数えます。
<例> 本社 20人 営業所 5人 会社合計25人
    本 社:作成義務あり
    営業所:作成義務なし(10人未満のため)

 就業規則の記載事項

就業規則には、必ず記載しなければならない
「絶対的記載事項」と
会社で規定をする場合には記載しなければならない
「相対的必要記載事項」があります。

(1)絶対的記載事項
・始業及び終業の時刻
・休憩時間
・休日
・休暇
・交替制の場合には就業時転換に関する事項
・賃金の決定、計算方法
・賃金の支払方法
・賃金の締切り時期と支払の時期
・昇給に関する事項
・退職に関する事項、解雇の事由

(2)相対的記載事項
・退職手当に関する事項
・臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
・食費、作業用品などの負担に関する事項
・安全衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰、制裁に関する事項
・その他全労働者に適用される事項

さらに、相対的な事項だけでなく、会社で定めておきたい事項や
必ず守るべき事項など、
その会社の実態に即した内容で就業規則を作成することをお勧めします。

 就業規則の作成および届出

労働者を10人以上使用する事業場が
就業規則を作成、変更した場合には、
管轄の労働基準監督署へ届出の義務があります。

その際、「就業規則(変更)届」と従業員代表者の「意見書」
の添付が必要となります。
意見書は従業員代表者に記入してもらうものですが、
特に何もなければ「特になし」と書いてください。
何か意見があれば、その意見を書くことになりますが
会社は必ずしもその意見に従う必要はありません。
この意見書は、あくまで
「従業員代表者の意見を聞いた」という事実を示すためのものです。

 就業規則の周知

労働基準監督署に届出をした就業規則は、
その内容を労働者に周知することが義務付けられています。
(労働基準法第106条)

周知の方法は以下のようなものがあります。
(労働基準法施行規則第25条の2)

(1)各事業所(支社、営業所、店舗など)の見やすい場所に掲示する
(2)書面で従業員全員に交付する
(3)電子媒体に記録し、それを常時パソコンのモニター画面等で
   確認できるようにする

周知の場所については、入社の際に労働者に
どこに就業規則が保管されているのか伝えておくとよいでしょう。
また周知は事業場ごとに行わなければならないため、
本社だけでなく、支店や営業所にも保管しておき
労働者が見られる状態にしておくことが必要です。

なお周知がされていない就業規則は
多くの裁判例で無効とされていることから、
就業規則の作成後に正しく周知することが重要です。

 就業規則と労働条件通知書

就業規則と入社時等の労働条件通知書の内容が違う場合は
その就業規則が
「合理的な労働条件が定められている就業規則」であることに加え、
「就業規則を労働者に周知させていた」ことという
要件を満たす場合には、
労働者の労働条件は、その就業規則に定める労働条件による
こととなります。
ただし「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」は、
その合意が優先することとなり、労働条件通知書が優先されます。
(労働契約法第7条)

 労使慣行と就業規則

労使慣行とは、会社の中で一定の事実が
相当期間にわたり継続して行われ、
これに従うことが労使双方で当然とされている場合をいいます。
いわゆる社内の「暗黙の了解」です。
就業規則など明確な根拠はないものの、
長年の慣習や黙認によって会社と労働者の双方に
浸透している状態です。
ただし、明文規定がないからといって効力が弱いわけではなく
むしろ、労使慣行は正式な労働条件として、
就業規則より優先されるケースもあります。

<具体例>
・遅刻、早退があっても欠勤控除をしない
・法定ではなく所定の割増率で割増賃金を支給している
・支給要件を満たさない労働者にも手当や福利厚生を与えている
・支給要件を満たさない労働者にも賞与や退職金を支給している
・所定外の休暇を付与している

労使慣行のような慣習に法的効力を認める規定に、
「法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと
認められるときは、その慣習に従う」と定める民法92条があります。

判例によれば、労使慣行が成立するのは、
以下の要件をすべて満たす場合とされています。

①同種の行為または事実が
 一定の範囲において長期間反復継続していること
 その慣行を反復継続して行っていること。

②労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないこと
 労働者がその取扱いや制度を認識しており
 その慣行に反対してないこと、
 撤廃を求めたりしていないこと。

③当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていること
 労働条件の決定権を有する者が、
 慣行を黙認・実行していること、
 労使ともにそれに従って処理・処遇しており
 事実上のルール化(規範化)していること。

こちらの3点すべての要件を満たしてないと
労使慣行とはいえず、事実を反復継続して行われているだけでは
「労使慣行が成立している」とはいえないのです。
そのためその行為に対して異議を申し立てた場合、
慣行の成立は阻止されます。

労使慣行のような社内ルールが見られる場合、
トラブルの元にならぬよう是正や廃止を行うことで
リスクを低減できます。
労使慣行の廃止や是正は次のような方法を取ります。

【労使慣行が成立していない場合】
(1)明示の意思表示による改廃
 労働者への告知・宣言によって行うこと。
 例えば、欠勤控除する旨を就業規則に定めているのに、
 欠勤控除をしないという慣行が成立している場合は、
 「今後はこれまでの慣行を改め、就業規則を厳格に適用する」
 旨を会社として宣言し、
 今後は就業規則どおりの運用を行うという対応のこと。

【労使慣行が成立している場合】
(1)就業規則の変更
 就業規則を正しい内容に変更する。
 ただし労働者への不利益変更の場合には
 労働者の同意が必要。

(2)異なる慣行の成立による改廃
 新しい労使慣行が発生したとき、
 古い慣行は廃止されたとみなされる

(3)労働者の黙示の意思表示による改廃
 労使慣行の改廃について労働者から異議が出なかった場合、
 その改廃に同意していると認められる

(4)労使合意による改廃
 労働者と直接話し合い、改廃を決定する方法。
 労働組合と労働協約を締結する、
 または労働者代表の同意を得る方法が一般的である。

このように、就業規則は作成していても
運用とは違う内容になっている場合、
労使慣行として認識されてしまう可能性があるため
まずは今の就業規則を確認し、運用に沿った内容になっているかどうか
確認してみましょう。
そのうえで、運用に沿った内容ではない場合には
早めの変更が必要となります。

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   ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
就業規則を作成するにあたり、どのような点に注意すればよいでしょうか。

【A.1】
就業規則を作成するにあたり、
その会社独自のルールについては
細かく定めておく必要があります。
労働時間、休憩、休日、休暇、懲戒、
賃金、退職金等がそれにあたると考えられます。

労働時間を見ても
・職種や就業場所によって始業、終業の時刻は同じか
・変形労働時間制を採用しているか
等があげられます。
職種や就業場所によって始業、終業の時刻や
1日の労働時間が違う場合にはその旨を記載し、
また配置転換があり労働条件が変更になる場合には
労働者の同意を得て労働条件を変更する旨の記載も必要でしょう。

それ以外に絶対的記載事項ではないところで
会社独自のルールを作成したい場合、
就業規則に定めておく必要があります。
休職であれば要件、期間、期間満了後の扱いなど
年次有給休暇以外の休暇であれば、慶弔休暇などです。
労働者本人の結婚や家族の出産等について
法定で定められている以外の休暇を与える場合には
その旨の記載が必要です。

就業規則は労働条件や職場規律を定める重要な文書であり
会社によってその内容は違います。
そのため市販書等の就業規則をコピーしただけでは
会社の実態と就業規則の記載内容が
あっていないために労務トラブルとなる可能性があります。
就業規則はきちんと読み込んで
自社の実態に沿った内容のものを作成しましょう。

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【Q.2】
従業員数が10名未満のため就業規則を届出していませんが
就業規則がないことによるデメリットはあるのでしょうか。
就業規則をそのまま使っていますが、それではダメなのでしょうか、

【A.2】
最初に書いた通り、従業員数が10名以上の事業場においては
就業規則の作成、届出が義務となっていますが、
人数が少ない事業場は作成と届け出義務が課されません。
ただし作成義務がない事業場においても
できれば就業規則の作成はしておいたほうがよいでしょう。

その理由は下記の通りです。

1.服務規律を明確にできない
 「服務規律」とは、従業員が勤務するうえで
 守るべき会社のルールのことをいいます。

 例えば
・セクハラ、パワハラをしてはならないということ
・営業秘密や個人情報について正しく取り扱うべきこと
・無断欠勤をしないこと
・タイムカードを正しく打刻すべきこと、他人に打刻してもらってはならないこと
・通勤時に車両を使用する場合は会社の許可を得なければならないこと

こういったことは
「社会人としてあたりまのこと」と思われるかもしれませんが、
ルールとして明確にしておかなければ、違反行為があったとしても、
注意することが難しくなります。

2.問題が起こった場合でも懲戒処分ができない
 就業規則がない場合、従業員の問題行動があっても、
 懲戒解雇をはじめとする懲戒処分を科すことができません。

これは、判例上会社が従業員に懲戒処分を科すためには、
あらかじめ就業規則に懲戒の種別(どんな懲戒処分があるか)や
懲戒事由(どんな場合に懲戒処分の対象になるか)を
事前に定めておくことが必要であるとされているためです。
(フジ興産懲戒解雇事件 最高裁判所判決平成15年10月10日)。

3.その他、法律に定められていない事項の判断

法律で定められてはいないが、会社で規定したい事項について
 判断に迷う場合があります。
 例えば、休職者の扱い、年次有給休暇以外の休暇の取り扱い、
 退職金の支給などです。就業規則を作成しておくことで、
 適切かつ公平な対応ができます。

また雇用保険関連の助成金の申請の際には従業員数にかかわらず
就業規則の提出が必要なことから、
従業員数が少ない会社でも作成しなければなりません。

上記のような点があげられますので、
できるだけ就業規則はその会社にあったものを
作成するようにしてください。