vol.201 パワハラ対応
2020年6月に先行して大企業を対象として施行された
「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が、
2022年4月からは中小企業も含めて完全義務化されています。
中小企業も施行から約1年経過いたしましたが、
きちんとその対応はできていますでしょうか。
今回は、パワハラについて企業が取るべき対応などについて
確認していきます。
■ パワーハラスメントとは
パワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)とは
主に社会的な地位の強い者による、
自らの権力や立場を利用した嫌がらせのことを言います。
厚生労働省では職場のパワハラの概念として、
次の3つの要素いずれも満たす場合と規定しています。
(1)優越的な関係を背景とした、
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、
(3)就業環境を害すること
このような業務の範囲を逸脱した行為により
身体的、肉体的苦痛を与えて働く環境を害することをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる
適正な業務指示や指導については、
職場におけるパワハラには該当しない、とされています。
<3つの要素の具体例>
1.優越的な関係を背景とした言動
業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が
行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して
抵抗や拒絶することができない可能性が
高い関係を背景として行われるもの
(例)・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が
業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、
当該者の協力を得なければ
業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、
これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
社会通念に照らし、当該言動が明らかに
当該事業主の業務上必要性がない、
又はその態様が相当でないもの
(例)・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
3.就業環境を害すること
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、
就業環境が不快なものとなったために
能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の
当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること
■ パワハラに該当する行為
具体的なパワハラに該当しうる行為には、
厚生労働省が提示している6つの行為類型があります。
すべて「優越的な関係に基づいて行なわれた行為」であることが
前提となっています。
1.身体的な攻撃
相手を殴る、蹴る、物を投げつける、大声で怒鳴りつけるなど、
身体的な攻撃をする行為
2.精神的な攻撃
長時間にわたって相手を執拗に叱責する、人格を否定する、
人前で相手を侮辱する、
「馬鹿」「死ね」「辞めてしまえ」などと言うこと
3.人間関係の切り離し
一人だけ別室に隔離して仕事をさせる、
ミーティングや職場イベントの日程を故意に教えない、
イベントの出席を認めない、あいさつをされても無視するなど、
本人の意に添わない形で同僚や上司との接点を意図的に切り離すこと
4.過大な要求
本人の能力を考慮せずに高度なスキルや
熟練でなければできない仕事を強制する、
適切な指導をせずに業務を丸投げする、
物理的に不可能な業務量を押しつける、
不要な残業や休日出勤を強制するような要求
5.過小な要求
合理性なく本人の能力や職能を
極端に下回るような仕事しか与えない、
あるいは担当職域に関連した仕事を
全く与えないような要求
6.個の侵害
部下が嫌がっているのに、執拗に恋愛や結婚生活
休日の過ごし方などについて尋ねる、
セクシャリティや宗教などの個人情報を周囲に吹聴する、
プライベートでの付き合いを強要するなどの行為
個別の事案の状況等によって
判断が異なることもありえます。
企業は十分留意して、
職場におけるパワーハラスメントに該当するか
微妙なものも含め、広く相談に対応するなど
適切な対応が求められます。
■ 企業が取り組むべきパワハラ防止対策
パワハラ防止法には、企業が講ずべき措置として
次の4項目が明示されており、すべて義務となっています。
罰則規定はありませんが、
場合によっては勧告や指導の対象となります。
1. 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
①職場におけるパワハラの内容、
パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、
労働者に周知・啓発すること
②行為者について、厳正に対処する旨の方針や
対処の内容を就業規則等文書に規定し、
労働者に周知・啓発すること
【取組事例】
・社内報、パンフレット、社内ホームページなどに
企業の方針を記載し、配付等する
・労働者に対して周知・啓発するための
研修、講習等を実施する
・就業規則等にハラスメントに係る言動を行った者に対する
懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発する
2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
①相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
②相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、
適切に対応できるようにすること
【取組事例】
・相談に対応する担当者をあらかじめ定める
・相談に対応するための制度を設ける
・外部の機関に相談への対応を委託する
・相談窓口の担当者が相談を受けた場合、
あらかじめ作成した留意点などを記載した
マニュアルに基づき対応する
3. 職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
①事実関係を迅速かつ正確に確認すること
②速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
③事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
④再発防止に向けた措置を講ずること
(事実確認ができなかった場合も含む)
【取組事例】
・相談窓口の担当者等が、
相談者及び行為者の双方から事実関係を確認する
・相談者と行為者の間で事実関係に関する主張に
不一致があり、事実の確認が十分にできないと
認められる場合には、
第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること
4. 併せて講ずべき措置
①相談者・行為者等のプライバシーを保護するために
必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
②相談したこと等を理由として、
解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、
労働者に周知・啓発すること
企業が「ハラスメントは当事者同士の争いのため関与しない」
という態度は通用しません。
・相談窓口を設置しその旨を従業員に通知する
・相談があればそれをきちんと聞く
・本当にハラスメントがあったのであれば企業側が対応する
・ハラスメントが起こらないよう研修会等を開催する
等、企業内の問題として対応していく必要があります。
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
パワハラと指導の違いがよくわかりません。
どのような場合にパワハラとなるのでしょうか。
【A.1】
実際の職場では、何がパワハラなのか
分かりにくい面があるのも事実です。
パワハラと指導の最大の違いは、
どのような目的を持って行われているか、
という点にあります。
また伝え方にも大きな違いがあります。
・問題行為を特定する
どのような点が問題であるかは、
具体的な言葉で、かつ、
可能な限り客観的な数字などに置き換えて伝える。
「やる気がない」「態度が悪い」といった
抽象的な問題の指摘は行わない。
・改善方法を指摘する
問題のみ指摘をし、改善方法を伝えないことは、
適切な注意指導をはいえず、
その方法が過剰な場合には
パワハラになりやすくなってしまう
・適切な方法で伝える
暴力的な手段が不可なのはもちろんのこと、
言葉で伝えるにしても、
どのような発言が適切で、注意指導に向いているかどうか
検討し、適切な言葉・表現方法で伝える。
特に、不必要な人格否定、人格攻撃は、パワハラとなる。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
パワハラの報告があったのですが、被害者本人ではなく
周りの従業員からの報告でした。
被害者本人は
「あまり大ごとにしたくない」
「上司からの報復がこわいので調査しないでほしい」
と言っているのですが、
どう対応したらよいでしょうか。
【A.2】
パワハラを始めとするハラスメント行為に関しては、
当人に被害が発生している事が前提になっているものといえます。
何故ならば、感じ方は人によって様々であり
同じ行為であっても特にパワハラとは感じない方、
パワハラと感じる方がいるためです。
まずは被害者本人と話をして、
「相談、報告をしてもらいたい」
「他にも悩みを抱えている人がいる可能性があるので教えてもらいたい」
旨を伝えて合意が得られれば調査対象としてください。
合意が難しい場合には、
今回の件は調査対象および加害者への処分とはなりませんが、
職場環境自体が悪化する事として通報があった、ということであれば、
再度、研修会を開催する等、会社として
ハラスメントを防止する措置を講じてください。