vol.217 改正雇用保険法 その2
前回に続き、
雇用保険法の改正についてです。
今回は育児休業給付金についての
改正内容になります。
また、育児介護休業法も改正がありますので
そちらもあわせて確認していきましょう。
■ 雇用保険法の改正
現在、雇用保険の継続給付に
「育児休業給付金」があります。
これは育児休業中に出勤がなく、
賃金が支払われなかった場合に
雇用保険から支給される給付金です。
原則、子が1歳まで支給されます。
保育園に入れない場合には、
1歳6か月、最大2歳になるまで延長できます。
<支給額>
育児休業開始日から180日までと
それ以降とで給付率が変わります。
~180日 : 休業開始時賃金日額の67%
181日~ : 休業開始時賃金日額の50%
今回の改正では、新たな給付金によって
休業前の手取り額の最大80%まで
受給できるようになります。
また育児休業から復帰した後、
時短勤務する労働者が多いことから
時間勤務で賃金額が下がった場合に支給される
給付金も創設されます。
○ 出生後休業支援給付の創設 令和7年4月1日施行
子の出生直後の一定期間以内に、
被保険者とその配偶者がそれぞれ14日以上の
育児休業を取得した場合、
被保険者の休業期間について28日間を限度に、
通常の育児休業給付に「休業開始時賃金の13%相当額」を
上乗せして受けられる制度です。
<支給要件>
1.出産後休業を開始した日前2年間に
みなし被保険者期間が通算して12か月以上あること
(現在の育児休業給付金の要件と同じ)
2.対象期間内に出生後休業の日数が通算して14日以上であること
:男性は子の出生後8週間以内、
女性は産後休業後8週間以内に取得した休業日をカウントします
3.当該被保険者の配偶者が当該出生後休業に係る子について
出生後休業をしたとき(※)
→両親ともに出生後休業をする必要があるということです
<支給額>
休業開始時賃金日額の13%
現在支給されている育児休業給付金に加算して
支給されるため
育児休業給付金67% + 出生後休業支援給付13% = 80%
が最大28日間支給されます。
これは、社会保険料や税等の控除を考慮すると、
給与所得者が手にする手取り額は、
一般的に総支給額の80%であることから
「一定期間、休業前の手取り額を保証する」という意図があります。
(※)出生後休業支援給付は
両親ともに出生後休業を取得することが前提となる制度です。
この「出生後休業を取得する」というのは
雇用保険の被保険者であることが必要なため、
例えば配偶者がフリーランスの方や
片親などは要件の3つ目を満たすことができません。
よって、
・配偶者のない者、その他厚生労働省令で定める者である場合
・配偶者が適用事業に雇用される労働者でない場合
等に該当する方は
被保険者のみ出生後休業した場合であっても
出生後休業支援給付が受給できます。
○ 育児時短就業給付の創設 令和7年4月1日施行
育児時短就業給付は、
育児のために時短勤務を行い
その分の賃金が減額されるのが一般的ですが、
その減額分を補うために給付金を支給する制度です。
子が2歳になるまで10%支給されます。
<支給要件>
・2歳に満たない子を養育するため
所定労働時間を短縮することによる就業をした場合
・時短勤務を開始する前の2年間に、
みなし被保険者期間が12か月以上あること
<支給額>
育児時短就業開始時賃金日額×10%
ただし時短勤務中であっても
あまり給与額が下がらない場合には支給額が調整されます。
■ 育児介護休業法の改正
今回、雇用保険の育児休業給付に関する改正を
確認してきましたが、
育児介護休業法も改正が行われる予定で
令和7年4月施行になります。
※一部、政令で定める日に施行
1.働き方の柔軟化措置および個別の周知・意向確認義務の新設
2.所定外労働(残業)免除の対象範囲拡大
→ 3歳以上小学校就学前の子も対象に
3.育児のためのテレワーク導入が努力義務化
4.子の看護休暇の拡大
行事参加等の場合も取得可能に
5.仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化
6.育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大
7.介護離職防止のための個別の周知・意向確認、
雇用環境整備等の措置の義務化
業種によっては、テレワークが難しい業種もあることから
テレワークの導入は努力義務になっています。
~育児介護休業法 改正のポイント~
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/002006545.pdf
■ 国民年金法の改正
国民年金第1号被保険者の育児期間にかかる
保険料の免除措置が新設されます。
労働者であっても、会社の社会保険や雇用保険に
加入できないような短時間での勤務をしている方も
いらっしゃることでしょう。
現在、国民年金第1号被保険者の出産に関しては
産前産後休業の期間中の保険料免除がありますが
育児休業中の保険料免除の制度がありません。
この不均衡の解消のため
会社の社会保険加入者と同じく
育児休業中も保険料を免除する法律改正が行われます。
<保険料免除にかかる要件>
1. 実母
出産予定日から起算して3か月を経過した日の属する月から
出産日から起算して12か月を経過した日が属する月の
前月までの期間
2. 実父または養子を養育する父母
子を養育することとなった日の属する月から
子が1歳に達する日の翌日が属する月の前月までの期間
わかりにくい文章ですが
子が1歳達するまでの期間が免除期間となります。
なお対象期間については、
基礎年金額の満額が保障されます。
~国民年金における育児期間の保険料免除/厚労省 年金局~
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001183528.pdf
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
出生後休業支援給付は
ほぼ出産前の給与額と同額の金額を受給できる、
ということですが、これは育児休業中すべての期間に
対応しているのでしょうか。
【A.1】
出生後休業支援給付は
「28日を限度」で
約1か月の間、受給可能となります。
なお男性は子の出生後8週間以内、
女性は産後休業後8週間以内の間が対象期間です。
その後は今まで通り、育児休業給付金が180日までは67%
181日目からは50%支給されます。
給付金は非課税であり、保険料もかからないことから
給与の約80%の支給であっても
手取り額は給与のときとほとんど変わらないとされています。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
育児介護休業法の法改正の
「働き方の柔軟化措置および個別の周知・意向確認義務の新設」
により
始業時刻等の変更、テレワーク、保育施設の設置運営等
新たな休暇の付与、時短勤務の5つから
会社が2つ以上の制度を選択して措置する必要があるようです。
ただし業種によりテレワークなどの自宅での業務が難しい状態です。
そのような場合でも必ず措置を講ずる必要があるのでしょうか。
【A.2】
例えば工場勤務や接客業など、
テレワークが難しい業種があると思います。
その場合であっても今回の法改正の措置は必要です。
現在も、3歳に満たない子を養育する労働者は
時短勤務制度を設けていることから、
テレワークが難しい業種については
「時短勤務」や「始業時刻等の変更」を組み合わせる方法が
よいと思います。
また出産や育児休業を取得する労働者が増えてきた
事業所においては、この機会に
「保育施設の設置運営等」も視野に入れることも考えられます。
現在、厚生労働省では、事業所内保育施設設置に関し
助成金を支給しています。
~事業所内保育施設設置・運営等支援助成金のご案内/労働局雇用均等室~
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/ryouritsu01/dl/hoikupanhu.pdf
なお上記措置の実施について、
子が 3歳になるまでの適切な時期に
「個別での周知と意向確認」も義務化となっています。
該当の労働者と面談し、どの制度を利用するのかを
記録しておきましょう。