vol.200 障害者雇用
「障害者を雇用する」というと
健常者と一緒に勤務することが難しい、業界的に無理だ、
どのように雇い入れすればよいかわらかない、等
いろいろな障壁があります。
今回は、障害者雇用に関する法律や
雇入れした場合の注意点等を確認していきます。
■ 障害者雇入れの法律と制度
従業員が一定数以上の規模の事業主は障害者を雇用する義務があります。
具体的には、43.5人以上雇用している事業主です。
従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を
「法定雇用率」以上になるよう雇用しなければなりません。
(障害者雇用促進法43条第1項)
(1)障害者雇用率制度
法定雇用率の計算は下記の計算になります。
【民間企業における雇用率設定基準】
障害者雇用率=
(対象障害者である常用労働者の数+失業している対象障害者の数)
÷
(常用労働者数 + 失業者数)
※ 短時間労働者は、原則、1人を0.5人としてカウント。
※ 重度身体障害者、重度知的障害者は1人を2人としてカウント。
短時間重度身体障害者、短時間重度知的障害者は1人としてカウント。
現行の民間の障害者雇用率は2.3%となっており、
上記の計算方法で、2.3%を超えていることが必要です。
そのため、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、
障害者を1人以上雇用しなければなりません。
・法定雇用障害者数の具体的な計算式
(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×法定雇用率(2.3%)
※常用労働者数は週30時間以上、
短時間労働者数は週20時間以上30時間未満の者
計算した数に1人未満の端数があるときは切り捨て
<例>
常用労働者数 70人、 短時間労働者数 20人、 法定雇用率 2.3%
(70人+20人×0.5)×2.3%
=(70人+10人)×2.3%
=1.84人 ⇒1人以上の障害者を雇用
・障害者数の数え方
ここでいう「障害者」とは、身体障害者・知的障害者・精神障害者であり
障害者手帳や療育手帳(愛の手帳)等を持っている方で、
障害の重さ、労働時間の長さ等でカウント数を計算します。
(1人雇用するごとに)
常用労働者で重度の障害者(障害者手帳1.2級等の方) 2人カウント
常用労働者で障害者(重度以外の方) 1人カウント
短時間労働者で重度の障害者(障害者手帳1.2級等の方) 1人カウント
短時間労働者で障害者(重度以外の方) 0.5人カウント
(2) 障害者雇用納付金制度
障害者の雇用に伴う事業主の経済的負担の調整を図るとともに、
全体としての障害者の雇用水準を引き上げることを目的とした制度です。
雇用率未達成企業から納付金を徴収し、
雇用率達成企業に対して
調整金、報奨金を支給するとともに、
障害者の雇用の促進等を図るための各種の助成金を支給しています。
具体的には
・法定雇用率を未達成の企業のうち、
常用労働者100人超の企業から、障害者雇用納付金を徴収
・法定雇用率を達成している企業に対して、
調整金、報奨金を支給
・障害者を雇い入れる企業が、作業施設・設備の設置等について
一時に多額の費用の負担を余儀なくされる場合に、
その費用に対し助成金を支給
上記の通り、常用労働者数が100人を超えなければ
納付金の支払いは不要です。
(3)雇用の分野における障害者の差別禁止及び合理的配慮の提供義務
募集・採用、賃金、配置、昇進、教育訓練などの
雇用に関するあらゆる局面で、
・障害者であることを理由に障害者を排除すること
・障害者に対してのみ不利な条件を設けること
・障害のない人を優先すること
は障害者であることを理由とする差別に該当し禁止されています。
具体的な例としては、
<募集・採用時の差別の例>
・単に「障害者だから」という理由で、求人への応募を認めないこと
・業務遂行上必要でない条件を付けて、障害者を排除すること
<採用後の差別の例>
・労働能力などを適正に評価することなく、
単に「障害者だから」という理由で、異なる取扱いをすること
このような差別をすることは違反となります。
(4)障害者職業生活相談員の選任
障害者を5人以上雇用する事業所では、
「障害者職業生活相談員」を選任し、
その者に障害のある従業員の職業生活に関する
相談・指導を行わせなければなりません。
(障害者雇用促進法79条)
(5)障害者雇用に関する届出
従業員43.5人以上の事業主は、
毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)を
ハローワークに報告する義務があります。
(障害者雇用促進法43条第7項)
■ 障害者雇用を行うメリット
会社が障害者雇用を行うメリットの大きな点は、
法律で定められている障害者雇用率を達成できることです。
また法律を遵守する以外にも、障害者雇用のメリットがあります。
1. 業務の最適化や効率化の見直しができる
障害者を雇用することをきっかけに、
社内の業務の見直しをおこない、業務を切り出しています。
業務を見直すことによって、今まで行っていた業務を最適化する、
効率化をはかったりすることが可能になる場合があります。
・データ入力の仕方はこれでよいのか
・ファイリングはもう少し見やすくならないか
・現在の人員は適材適所か、業務に偏りがないか
等、一度社内のデータベースや業務フローを見直してみましょう。
2. 優秀な人材を確保できる可能性がある
障害者の中には、障害があるだけで業務は問題なく遂行できる人や、
特定の分野で非凡な才能を発揮する人など、
優秀な人材は数多く存在します。
例えば、
・足が悪いがシステムにはとても強い
・発言は控えめだが、上司からの指示はきちんとできる
等、人それぞれ得意・不得意がありますが
その得意分野を伸ばすような業務を行わせると
大きな力を発揮する障害者もいます。
3. 企業の社会的責任を果たせる
障害者雇用は、法律を遵守していることだけでなく
積極的に行えば、社会的責任を果たすことができるため、
社会的な信用や企業価値の向上に繋がります。
4. 助成金や調整金を受け取れる
障害者を雇い入れた場合に受給できる
厚生労働省の助成金がいくつかあり
要件を満たしていればその助成金を受給できる可能性があります。
また常時雇用している労働者数が100人を超える事業主で
障害者雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、
その超えた障害者数に応じて
1人につき月額2万7千円の障害者雇用調整金が支給されます。
5. 税制の優遇措置が受けられる
助成金の非課税措置(法人税・所得税)、事業所税の軽減措置、
不動産取得税の軽減措置、固定資産税の軽減措置
等、税金の優遇措置が受けられます。
~障害者を多数雇用する事業主の方へ 税制優遇制度のご案内~
https://www.mhlw.go.jp/content/000767556.pdf
■ 障害者雇用を行う際に注意すべきこと
障害者を雇い入れるメリットがある一方
注意しなければならない点もあります。
1. 設備投資に費用が掛かることがある
障害者は何らかのハンデを持っているため、
彼らに働いてもらうには障害の特性に合った配慮を
しなければならないこともあります。
例えば、バリアフリー化や障害の状態に応じた運動器具の確保
パーテーションの設置、私用車通勤のための駐車場確保、
といった、施設・設備の最適化が必要になることもあります。
2. 他の従業員に理解や協力
障害者を雇用するには、周囲の理解と協力が欠かせません。
どうしても障害者1人ではできない作業があったり
見た目では障害が判断できない障害者もいます。
そのため、周囲の従業員には
・「できること」「できないこと」を周知する
・何か問題が起こった時にはいち早く上司に報告する
・他の従業員にも障害者の理解を深めてもらう研修会の開催
等、が必要だと考えられます。
障害者の特性を周知することは大切で、同時に
周りの従業員に、障害者を雇い入れる理由を理解してもらい
対応を一緒に考えていく必要があります。
周囲の理解を深めずに障害者を雇うと
障害者への配慮が「特別扱いだ」と捉えてしまう人や
負担に感じてしまう人もいるため、
既存従業員の士気低下を招く可能性があります。
そのため社内の障害者への理解を促進して
何かあればすぐに上司に連絡できるようにしておきましょう。
高齢・障害・求職者支援機構
/抜粋「事例から見た障がい者雇用のポイント」
https://www.jeed.go.jp/disability/data/book/employment_casebook/html5.html#page=39
/「障がい者の職場定着と戦力化~障害者雇用があまり進まない業種の事例」
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/employment_casebook.html
■ 障害者本人が受けられるサービス
障害者の方のうち、なかなか障害を受け入れられない方や
どのようなサービスを受けられるのか
わからない方もいるようです。
どのようなサービスがあるのか、一般的なものを取り上げておきます。
●障害者手帳の交付
【手続先】お住いの市町村
【サービス】
医療費負担の軽減
国税や地方税の控除または減免
補装具購入費の助成または支給
障害者の生活支援を目的とした住宅リフォーム費の助成
公共交通機関など各種運賃や通行料の割引
郵便料金、NHK受信料、公共施設入館料など
一部公共料金の減免または無償化
●障害年金
【手続先】日本年金機構
【サービス】
障害基礎年金、障害厚生年金が受給できる
障害基礎年金の2級だと年額77万円程度受給
●その他
障害者雇用枠で就職することができる。
障害者雇用枠で募集をかけている会社は
障害者に理解があり、設備も整っている場合が多いため
就業しやすい環境にある場合が多い。
特に障害者手帳を交付してもらえると
受けられるサービスが多く、
また年末調整や確定申告等で税金の免除もあることから
該当される方は市役所等で相談されるとよいでしょう。
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ここが知りたい! Q&A
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【Q.1】
障害者雇用を考えていますが、
既存の従業員に理解してもらえるかどうか不安です。
どうすれば理解してもらえるでしょうか。
【A.1】
社会的責任を果たす義務であることを伝えた上で、
会社の方針や配属部署の選定理由について、
既存の従業員に説明しましょう。
その上で障害者が入社した場合には
・障害の特性や配慮すべき事項、
コミュニケーション時のポイントなどの現場社員への共有
・障害者とコミュニケーションや管理上のポイント
・トラブル発生時の対応方法
・人事部内への相談窓口設置と支援機関との連携
等を説明し、何かあれば上司や相談窓口へすぐに連絡するように
徹底させてください。
高齢・障害・求職者支援機構
/はじめての障がい者雇用・事業主のためのQ&A
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html
☆ ☆ ☆
【Q.2】
障害者を雇い入れた場合の助成金は
どのようなものがあるのでしょうか。
【A.2】
厚生労働省の障害者雇用の助成金は
現在、下記の助成金があります。
●特定求職者雇用開発助成金 特定求職者困難コース
高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、
継続して雇用する労働者として雇い入れるとき
厚生労働省 パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/000553237.pdf
●特定求職者雇用開発助成金 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害者や難病患者をハローワーク等の紹介により、
継続して雇用する労働者として雇い入れるとき
厚生労働省 パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/000971191.pdf
●トライアル雇用助成金 障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース
就職が困難な障害者を一定期間雇用するとき
厚生労働省 パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/000562055.pdf
●障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金
障害者が障害を克服し作業を容易に行えるよう配慮された施設
保健施設や給食施設等の福祉施設または改造等がなされた
設備の設置または整備を行うとき
●人材開発支援助成金 障害者職業能力開発コース
障害者の職業に必要な能力を開発、向上させるため、
一定の教育訓練を継続的に実施する施設の設置・運営を行うとき
厚生労働省 パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/000559967.pdf
●キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース
障害者の雇用を促進するとともに職場定着を図るために、
・有期雇用労働者を正規雇用労働者(多様な正社員を含む)
または無期雇用労働者に転換する措置
・無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する措置
のいずれかを継続的に講じたとき
厚生労働省 パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/000923840.pdf
障害者雇い入れの助成金もいろいろありますので
会社および雇い入れたい障害者にあった
助成金を確認してみてください。