vol.202 健康診断の実施

医師による健康診断は、入社の際や1年に1回、
事業主が実施しなければならない、と法律で定められています。
どのような従業員が、
どのような項目を受診しなければならないのか、
また、再検査となった場合には
事業主はどのように対応しなければならないのかについて
確認していきたいと思います。

 健康診断の種類

一般的に1年に1回、受診する「定期健康診断」については
ご存知の方も多いと思います。
それ以外にどのような健康診断があるのか確認します。

(1)雇入れ時の健康診断(安衛則第43条)
 ①該当者
  「常時使用する労働者」すなわち正社員およびパート等のうち、
  「1年以上使用する予定で、
  1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上である者」
 ②実施時期
  雇入れの直前または直後に行うものとされています。
 ③項目
 ・既往歴及び業務歴の調査
 ・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
 ・身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
 ・胸部エックス線検査
 ・血圧の測定
 ・貧血検査(血色素量及び赤血球数)
 ・肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
 ・血中脂質検査(LDLコレステロール,
  HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
 ・血糖検査
 ・尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
 ・心電図検査

(2)定期健康診断(安衛則第44条)
 ①該当者
  (1)の雇入れ時の健康診断と同じ
 ②実施時期
  1年以内ごとに1回
 ③項目
 ・既往歴及び業務歴の調査
 ・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
 ・身長(※2)、体重、腹囲(※2)、視力及び聴力の検査
 ・胸部エックス線検査(※2) 及び喀痰検査(※2)
 ・血圧の測定
 ・貧血検査(血色素量及び赤血球数)(※2)
 ・肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)(※2)
 ・血中脂質検査(LDLコレステロール,
  HDLコレステロール、血清トリグリセライド)(※2)
 ・血糖検査(※2)
 ・尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
 ・心電図検査(※2)

原則は、(1)の雇入れ時の健康診断と同じ項目ですが、
(※2)の項目は、医師が不要だと判断した場合には
検査の一部を省略できます。

(3)特定業務従事者の健康診断(安衛則第45条)
 ①該当者
  深夜業を含む業務や、著しく暑熱や寒冷な場所における業務、
  坑内における業務などを行う従業員
 ②実施時期
  配置換えの際及び6か月に1回
 ③項目
  業務内容による

(4)海外派遣労働者の健康診断(安衛則第45条の2)
 ①該当者
  海外に6か月以上派遣される従業員
 ②実施時期
  派遣前および帰国後国内で業務につかせる時
 ③項目
  2(定期健康診断)の項目に加えて
  医師が必要と判断した場合に実施する項目
  ・腹部超音波検査
  ・尿酸値
  ・B型肝炎ウイルス抗体検査
  ・血液型検査(ABO式、Rh式)(派遣前に限る)
  ・糞便塗抹検査(帰国時に限る)

(5)給食従事者の検便(安衛則第47条)
 ①該当者
  事業に付属する食堂等における給食の業務に従事する従業員
 ②実施時期
  雇入れの際、配置換えの際
 ③項目
  ・検便

■ 健康診断実施後の会社の取り組み

(1)健康診断の結果の記録
 健康診断の結果は、個人別に保管しておかなければなりません。
 保存期間ですが、一般的には5年、
 特定業務従事者の健康診断は、
 健診の種類によって5~40年と定められています。

健康診断の保存期間(東京労働局)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000562718.pdf

 なお、最近は個人情報保護法により、
 会社に健康診断の結果通知書が届かず
 労働者本人のもとへ結果が届くケースが増えました。
 その場合には、労働者から

 結果通知書のコピーを提出してもらって
 会社で保存してください。

(2)医師からの意見聴取
 健康診断の結果に基づき、
 健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、
 労働者の健康を保持するために
 必要な措置について、
 医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の
 意見を聞かなければなりません。(安衛法66条の4)

(3)健康診断実施後の措置
 上記2による医師又は歯科医師の意見を勘案し
 必要があると認めるときは、
 作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を
 講じなければなりません。(安衛法66条の5)

(4)健康診断の結果に基づく保健指導
 健康診断の結果、

 特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、
 医師や保健師による保健指導を行うよう
 努めなければなりません。(安衛法66条の7)

健康診断の結果をもとに
医師の診断を促すことや
配置転換などの措置を講じることが会社の責務となります。

■ 二次健康診断等の実施

労働者は、定期健康診断等のうち直近のもの
(以下「一次健康診断」という。)において、
脳・心臓疾患を発症する危険性が高いと判断された人に対して、
脳血管及び心臓の状態を把握するための二次健康診断
及び脳・心臓疾患の発症の予防を図るための
医師等による特定保健指導を受けることが可能です。
その際の費用負担はありません。

一次健康診断の結果において、
①血圧の測定、②血中脂質検査、③血糖検査、
④腹囲の検査又は BMI(肥満度)の測定、
のすべての検査項目について
異常の所見があると診断された場合に
1年度内に1回受けることができます。

ただし、①から④の検査項目において異常なしと
診断された場合であっても、
所属する事業所に選任されている産業医等が
当該検査を受けた労働者の就業環境等を
総合的に勘案し異常の所見が認められると診断した場合には、
産業医等の意見を優先し、
当該検査項目については

異常の所見があるものとすることができます。

なお、労災保険制度に特別加入されている方及び
すでに医師により脳・心臓疾患の症状を有すると
診断されている人は対象外となります。

あくまで労働者の希望により実施されるものですが
会社側も対象者に二次健康診断の受診を勧奨するようにしましょう。

■ 健康診断の結果報告 等
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、
定期健康診断および特殊健診の結果報告書について
遅滞なく労働基準監督署へ報告する義務があります。

その他、労働者が50人以上の事業所には以下も義務付けられます。
 ・衛生委員会の設置
 ・産業医の選任
 ・ストレスチェックの実施

実施もれのないように注意が必要です。

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  ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
年に1回、

定期健康診断を受診させないといけないことは理解していますが
労働者が受診しないケースがあります。
労働者が提出を拒んだ場合の対応はどうすればよいでしょうか。

【A.1】
労働安全衛生法第66条1項は、
「事業者は、労働者に対し、

厚生労働省令で定めるところにより、
医師による健康診断を行わなければならない」

としています。そのため、

会社は必ず労働者に健康診断を受診させなければなりません。

労働者が健康診断を受診しない場合、
そのままの状態にしておくことは

労働安全衛生法違反だけでなく、
安全配慮義務違反にも該当し、

会社は大きなリスクを抱えることになります。

なかなか時間が取れない等で受診しない労働者もいることから
会社が定期健康診断の実施機関に申し込みをし
各労働者の予約をとると、受診しない労働者が減ると思われます。

体調不良や業務の都合により予定を変更したい場合や
会社が指定する実施機関ではなく他の医療機関で受診したい場合は
会社に申し出をして都度、受診したかどうかを確認してください。

受診しない労働者がいる場合には
期日を決めて受診すること、受診は業務命令であること、
受診して結果を提出しない場合には就業規則に基づき、
懲戒処分とする場合もあること、を伝えてください。

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【Q.2】
健康診断を行いましたが、結果は労働者本人に通知されました。
会社に結果報告を提出してもらうよう伝えてありますが
提出されない場合にはどうしたらよいのでしょうか。

【A.2】
以前は、会社に健康診断の結果が届き

その内容を労働者に通知していましたが、
現在は、個人情報保護法の観点から
直接、受診した労働者へ

結果報告が通知されていることが多いようです。
そのため、労働者から会社へ結果が報告されないと
会社は健康診断の結果の保管義務があるにもかかわらず
保管できない状態になっています。

労働安全衛生法においては、

66条の1,66条の6にて
健康診断の実施を使用者に義務付け、
当該健康診断の結果を労働者へ通知する義務を

規定していることからすれば、
会社が健康診断の結果を取得することが前提

となっていることは明らかであり、
健康診断の結果は会社帰属情報であるといえます。

そのため、結果を会社に報告しなければならない旨を
労働者にきちんと説明しておき、

結果を報告してもらうようにしてください。