vol.213 固定残業制度

固定残業制度は、毎月の給与に一定額の残業代を定額で
支給する制度で、利用されている会社もあると思います。
ただし運用方法を間違えると、残業代と認められなかったり
未払賃金と判断されてしまう可能性があることから
採用や運用には注意が必要です。

今回は、固定残業制度について確認していきます。

固定残業制度とは

固定残業代とは、
所定労働時間分の給与(いわゆる基本給・各種手当のこと)に、
あらかじめ一定時間の残業(時間外労働)の対価を
毎月固定額で支給するものです。

通常は、賃金締切日までの労働時間を計算し、
時間外労働の時間数分の割増賃金を支払いますが、
固定残業制においては
最初に労働契約を結ぶことで
毎月一定額の割増賃金を支給します。

例えば固定残業を20時間と設定していた場合、
あらかじめ20時間分の時間外労働の割増賃金が支払われているため、
20時間までは割増賃金を支給しなくてよいことになります。

ただし20時間を超えた分については、
追加で時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
仮に30時間働いた場合は
10時間分の割増賃金を追加で支払います。

反対に20時間に満たない時間外労働の月があった場合でも
「固定」で支払う契約になっているため、
固定残業代をカットすることはできず
満額支払わなければなりません。

 固定残業制度導入のメリット、デメリット

会社側が固定残業制度を導入するメリットやデメリットは
どのようなものがあるのか確認していきます。

【メリット】
1.時間外労働の給与計算が楽になる
固定残業を設定した時間数までは
割増賃金の計算が同額になるため、
所得税や雇用保険料を都度計算する必要がなくなります。

ただし労働時間の管理は必須ですので
時間数はきちんと把握し帳簿に記載する必要があります。

2.人件費を把握しやすくなる
固定残業制度を導入することにより、
残業代がある程度固定になり、
非固定的賃金の額が少なくなることから
人件費の把握がしやすくなります。

ただし、
設定時間を超過した分の残業代については
支払う必要があります。
固定化された残業代によって
人件費を把握しやすくはなりますが、
人件費の支出総額を減らせるわけではないので
注意が必要です。

【デメリット】
1.人件費が上昇する可能性がある
固定残業制度は、
決められた時間数の時間外労働を行わない場合でも
必ず支払わなければならないため、
過剰に賃金を支払うことがあります。

2.長時間労働になりやすい
一定の時間外時間があらかじめ給与に含まれているため、
上司が「一定時間内は残業をさせても問題ない」
「一定の残業代をもらっているのだから、
定時退社させるのはむしろおかしい」という
誤解が生じやすいことがあげられます。

そもそも、固定残業制度は、
定められた時間外時間の労働を
一律に推奨するような制度ではないことを、
上司にも理解してもらう必要があります。

 固定残業制度を有効にするための方法

せっかく固定残業制度を導入しても
通知の仕方や運用によって
「時間外を支払っていない」とみなされる可能性があります。
そのためにも、固定残業制度を有効にするための
ポイントを挙げていきます。

1.「固定残業」分とわかるように手当が表記されていること
給与明細書や労働条件通知書に、
その手当が、固定残業代の手当であること、
残業時間何時間分であるか、の表記が必要です。
固定残業代がいったいいくらなのかわからない表記の仕方は
固定残業を支払ったとみなされない場合があります。

基本給 15万円
固定残業代 2.5万円(20時間分)

このように基本給とは別に固定残業手当の額と時間数を
明示する必要があります。

また手当を別にする場合、
「営業手当」「調整手当」等、
手当の名前から固定残業とわからないような
手当名にしてしまうと、
固定残業代として認められない可能性があります。
「固定残業代」「定額残業手当」等
時間外手当の固定分である、と
だれもがわかる手当名にしておいてください。

2.固定残業時間の超過分の割増賃金を支払う
就業規則に固定残業の手当を
明記することはもちろんのこと、
固定残業代の時間数を超える残業をした場合は、
時間外手当を別途支払わなくてはならないため、
就業規則に超過分を支払う旨の記載が必要です。

3.最低賃金を下回っていないか
最低賃金は家族手当、通勤手当、精皆勤手当のほか
時間外や深夜の割増賃金額も含まず計算されます。
そのため、固定残業制度を採用する場合
固定残業を含めず、最低賃金額を下回っていないかどうか
確認する必要があります。

また、総支給額を変えずに固定残業制度を導入する場合は
労働条件の不利益な変更に当たるため、
労働者の合意が必要です。
固定残業制度とはどのような制度か、
いつから導入するか等も含めて、
労働者に説明会を行い、同意を得ておいてください。

4.労働時間の管理は必須
固定残業制度を導入しているからといって
毎月の労働時間の管理を省略できるわけではありません。
上記2.にも書きましたが、
固定残業の時間数を超えた場合には
別途割増賃金を支払う必要があり、
労務管理上も労働時間の管理は必須となっています。

厚生労働省パンフレット
~固定残業代を賃金に含める場合には適切な表示をお願いします~
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000184068.pdf

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   ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
1か月の固定残業時間の上限はあるのでしょうか。

【A.1】
固定残業制度は特に時間の上限が定められていませんが
特別条項付きではない通常の36協定で、
1か月の時間外の上限が「45時間」となっていることから、
この時間数を超えない固定残業時間を設定しておくべきでしょう。

ただし「1年間に360時間」となっていることから、
できるだけ1か月30時間(360時間÷12か月)におさえておくと
よりよいでしょう。

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【Q.2】
固定残業制度の会社側のメリット、デメリットを教えてください。

【A.2】
固定残業制度の会社側のメリット、デメリットは以下のようになります。

【メリット】
1.人件費を的確に把握することができる
通常、時間外労働の賃金はその時によって変動するものですが、
固定残業制度により月々のブレが少なくなり、
ある程度時間外労働の金額が把握しやすくなり
おおよその人件費がわかります。

2.総支給額が多くなることにより募集の際に人が集まりやすい
募集の際、固定残業代を含めて賃金額を記載するため
総支給額が多くなり、人が集まりやすくなる傾向にあります。
ただし、固定残業代の金額、時間数を入れることは現在必須であり
入社後、トラブルにならないようにするためにも
面談の際に、固定残業制度について説明をしておきましょう。

【デメリット】
1.的確な運用をしないと違法とみなされる
せっかく制度を導入しても
運用が間違っていると違法とみなされ、
時間外の割増を別途支払わなければならなくなります。

 ・固定残業代として金額、時間数を明示しているか
 ・固定残業代の時間数を超えた場合には
  別途支払いをする旨の記載、支払いを実際に行っているか
 ・固定残業代の計算方法を明示できるか

は必須となります。

2.割増賃金の額を実際の労働時間より多く支払うことになる
固定残業代は、その時間数の残業をしてもしなくても
毎月一定額支払うものです。
例えば20時間分の固定残業代を支払っていても
実際には毎月5時間しか残業していない場合でも
20時間分の支払いが必要です。

また退職前などは引継ぎ等であまり仕事がなかったり、
年次有給休暇を使って休んでいる場合であっても
固定残業代を定額支払う必要があります。

3.固定残業代の時間数は必ず残業させられる時間、と思われやすい
固定残業代の時間数は
「毎月必ず働くべき残業時間」 と思われやすく、また
それ以上に残業が多いため、「長時間労働=ブラック企業」と
思われる場合があります。

あくまで固定残業代はその業務の目安の残業時間であり
その時間数に満たない労働時間であっても支払いがされる旨を
説明しておくとよいでしょう。