vol.205 男女雇用機会均等法
働く人が性別により差別されることなく
その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することから
男女雇用機会均等法が施行されています。
性別ではなく個々人の意欲、能力、適性に基づく公正な取扱いを行うこと、
ハラスメント防止対策等に取り組んでいただき、
男女がともにその能力を十分発揮することができる職場環境を
作り出していくことが必要です。
前回、出産や育児に関する手続きと給付について説明しました。
今回は男女雇用機会均等法について、
ハラスメント対策も含めて確認していきます。
■ 男女雇用機会均等法とは
男女雇用機会均等法は、昭和60年に施行されました。
当初、労働市場への女性の参入が大きく進んでいましたが
女性を単純、補助的な業務に限定するなど、
男性とは異なる取扱いを行う会社が多かったことが
施行の背景にあります。
その後の改正で、女性労働者の結婚・妊娠・出産退職制や、
女性の結婚、妊娠、出産及び産前産後休業の取得を理由とする
解雇が禁止されるなど、
出産や育児に関するセクハラやマタハラにも言及しています。
■ 男女雇用機会均等法の内容
●性別を理由とする差別の禁止(5条、6条)
募集・採用、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・
昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、
職種・雇用形態の変更、退職の勧奨、
定年・解雇・労働契約の更新について、
性別を理由とする差別を禁止
●間接差別の禁止(第7条)
労働者の性別以外の事由を要件とする措置のうち、
実質的に性別を理由とする差別となるおそれがあるもの
・ 労働者の募集又は採用に当たって、
労働者の身長、体重又は体力を要件とすること
・ 労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に当たって、
転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
・ 労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること
●セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産等に関するハラスメント対策
(第11条)
職場におけるセクシュアルハラスメント、
妊娠出産等に関するハラスメント防止のために、
雇用管理上必要な措置を事業主に義務付け
●母性健康管理措置(第12条・第13条)
妊娠中・出産後の女性労働者が保健指導・
健康診査を受けるための時間の確保、
当該指導又は診査に基づく指導事項を守ることができるように
するための必要な措置の実施を事業主に義務付け
●労働者と事業主との間に紛争が生じた場合の救済措置
企業内における苦情の自主的解決(第 15 条)
労働局長による紛争解決の援助(第 17 条)
機会均等調停会議による調停(第 18 条~第 27 条)
施行当初は
女性の労働条件の差別の禁止が中心でしたが、
女性の社会進出が進むにつれて
出産や育児に関する事項も
法律に定められるようになってきました。
■ 禁止事例
男女雇用機会均等法で定められている
具体的な禁止の事例は下記になります。
●募集採用
・募集又は採用に当たってその対象から男女のいずれかを排除すること
・募集又は採用に当たっての条件を男女で異なるものとすること
・募集又は採用に当たって男女のいずれかを優先すること
●配置・昇進・降格・教育訓練等
・一定の職務への配置・昇進・降格・教育訓練
(以下、配置等、という)に当たり
その対象から男女のいずれかを排除すること
・一定の職務への配置等に当たり
能力及び資質の有無等を判断する場合に、
その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること
・配置等における権限の付与に当たって男女で異なる取扱いをすること
●定年、解雇
・定年の定めについて男女で異なる取扱いをすること
・解雇に当たってその対象を男女のいずれかのみとすること
●妊娠・出産等
・解雇すること
・期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと
・降格させること
・減給・賞与・昇進・昇格の人事考課において
不利益な評価を行うこと
■ 会社がハラスメント防止において講ずべきこと
平成28年3月に男女雇用機会均等法を改正する法律等が公布され、
妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置義務が新設されました。
妊娠、出産、育児休業(以下、妊娠等、という)に関する
ハラスメントの防止措置の内容は下記の通りになります。
1.事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
(1)妊娠等に関するハラスメントの内容や
妊娠等に関する制度等の利用ができる旨を明確化し、
管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
(2)妊娠等に関するハラスメントの行為者については、
厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の
文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)相談窓口をあらかじめ定めること
(4)相談窓口担当者が、内容や状況に応じ
適切に対応できるようにすること
(5)その他のハラスメントの相談窓口と一体的に相談窓口を設置し、
相談も一元的に受け付ける体制の整備が望ましいこと
3.職場における妊娠、出産等に関するハラスメントにかかる
事後の迅速かつ適切な対応
(6)事実関係を迅速かつ正確に確認すること
(7)事実確認ができた場合には、
速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
(8)事実確認ができた場合には、
行為者に対する措置を適正に行うこと
(9)再発防止に向けた措置を講ずること
(事実確認ができなかった場合も同様)
4.職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や
背景となる要因を解消するための措置
(10)業務体制の整備など、事業主や妊娠した労働者
その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること
(11)妊娠等した労働者に対し、
制度等の利用ができるという知識を持つことや、
妊娠等した労働者の側においても、
周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら
自身の体調等に応じて
適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を
周知・啓発することが望ましいこと
5.1から4までの措置と併せて講ずべき措置
(12)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために
必要な措置を講じ、周知すること
(13)相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として
不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、
労働者に周知・啓発すること
■ 男女雇用機会均等法における禁止事項
会社としては言ってはいけない、やってはいけない
言動があるので注意が必要です。
●採用募集時
×営業マン→○営業スタッフ
×ウエイトレス→○ホールスタッフ
×女性事務スタッフ→○事務スタッフ
×男性:3名、女性:2名の募集→○5名募集
×幹部候補(男性優遇)→○幹部候補生
●入社後
・性別による昇進の差別
・お茶くみなど軽微な仕事のみを女性の業務とする
・妊娠等の理由による昇給や賞与の差別
・妊娠等の理由による退職の強要
・男性のみ社員寮を設置(福利厚生の差別)
性別を限定するような表現や
性別によって条件をつけるような採用や評価制度
妊娠等を理由とした差別も禁止事項となります。
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
会社は必ず男性と女性の両方を採用しなければならないのでしょうか。
【A.1】
男性と女性、どちらも必ず採用しなければならい、というわけではありません。
法律では、雇用機会の付与、募集・採用条件、求人情報の提供、
採用選考、採用決定等のすべての段階において
男女異なる取扱いをしないことを求めています。
従って、個々の労働者の職務に対する意欲、能力、適性を
公平、公正に判断した結果、
採用する者が男性のみになった場合には、法違反となりません。
また入社後、遂行業務の適正配置等の結果として
男性または女性ばかりになることは、法違反となりません。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
妊娠をした労働者がいますが、以前より人事考課の成績が悪く
降格を予定していました。
このような場合であっても、妊娠した労働者に対して
「妊娠・出産等をした労働者への不利益取扱い」となり法違反になるのでしょうか。
【A.2】
法違反とはならない可能性が高いです。
妊娠等の事由の発生前から能力不足等が問題とされており、
不利益取扱いの内容・程度が能力不足等の状況と比較して妥当で、
改善の機会を相当程度与えたが改善の見込みがない場合などは
法違反とはなりません。
ただし、法違反と判断されないためには、
人事考課の成績が悪いことを記録として残しておき
説明できる状態にしておくことが必要です。
☆ ☆ ☆
【Q.3】
性別以外の事由を要件とする措置のうち、
実質的に性別を理由とする差別となるおそれがあるものも
法違反となるのでしょうか。
【A.3】
性別以外の事由であっても差別と判断される場合があります。
これを「間接差別」と言います。(男女雇用機会均等法第7条)
厚生労働省令で定める3つの措置については、
合理的な理由がない場合は間接差別として禁止されます。
【厚生労働省令で定める措置】
● 労働者の募集又は採用に当たって、
労働者の身長、体重又は体力を要件とすること。
● 労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に当たって、
転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること。
● 労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること。
なお、省令で定めるもの以外については均等法違反ではありませんが、
裁判等において間接差別として違法と判断される可能性もあるため
注意しましょう。