vol.204 出産に関する手続き・給付

妊娠し出産と、仕事を続けていく、という
育児と仕事の両立は
現在女性だけでなく男性も育児休業を取得しやすくなったりと
家族で家庭と仕事を支えていく時代となりました。

それでも休んでいる期間の経済的な補償はどうなるのか
心配な方もいると思いますので
今回は出産に関する手続きと給付について確認していきます。

■ 出産に関する手続き、給付の概要

労働者本人または配偶者の妊娠・出産にあたり、多くの人が
産前産後の期間や乳児の養育のため休業します。
また、妊娠中の妊婦健診やつわり等体調不良で休むことも多くあります。

その際、会社は ノーワークノーペイの原則により、
働いていない期間について給与を支払う必要はありません。
ただしその期間は長く、給与が支払われないと
生活に支障をきたすため、国等で出産や育児に関する
給付を労働者に支給しています。

妊娠は病気ではないことから
妊婦健診や出産にかかる費用は原則全額自己負担となりますが、
国や各自治体は妊婦健診や出産にかかる費用の一部を
助成する制度を設けています。

■ 妊娠届

妊娠がわかったら、分娩予定日が決定する10~11週をめどに
お住まいの区市町村の窓口にて妊娠の届出を行ってください。
窓口では、母子健康手帳の交付とともに、
妊婦健診を公費の補助で受けられる受診券や、
保健師等による相談、母親学級・両親学級の紹介、
各種の情報提供などを受けることができます。

分娩前後に帰省するなど住所地以外で過ごす場合は、
その旨を住所地及び帰省地の両方の区市町村の母子保健担当に
電話などで連絡をとり、母子保健サービスの説明を受けてください。

■ 傷病手当金(健康保険) つわりなどで労務不能な場合

産前休業前であっても、重度のつわりや
切迫早産、妊娠高血圧症候群、子宮頸管縫縮術などで
療養が必要との医師の診断が出た場合に「傷病手当金」の
受給が可能となります。

連続して4日以上休んだ場合で、賃金の支払いを受けなかった場合に
4日目より支給されるのが「傷病手当金」です。

・傷病手当金の計算式
支給開始日以前の連続する12か月の平均標準報酬月額÷30日×2/3

なお受給できる女性従業員は、
会社の社会保険加入者(被保険者)です。

<参考>協会けんぽHP 「傷病手当金」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/

■ 産前産後休業 

産前休業とは、子供が生まれる前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)
のうちで女性従業員が請求した場合、
また産後休業とは、子供が生まれた後8週間、
会社はそれぞれ休業させなければなりません。
ただし、産後6週間を経過した女性従業員が請求した場合であって
医師が認めた場合には就業することができます。
(労働基準法 第65条)

そのため産前は、女性従業員の請求があった場合に
休業させる必要がありますが
「そのまま働きたい」という場合には
休業を与えなくても問題ありません。

対して産後は、女性従業員の請求がなくても
母性健康管理の観点から、産後6週間は必ず休ませる必要があります。

■ 産前産後休業の給付(健康保険) 出産手当金、出産育児一時金

●出産手当金
会社を休み、賃金の支払いを受けなかった場合に
出産日以前42日(6週間)から出産の翌日以後56日
(8週間)の範囲で支給されるのが「出産手当金」です。

・出産手当金の計算式
支給開始日以前の連続する12か月の平均標準報酬月額÷30日×2/3

なお受給できる女性従業員は、
会社の社会保険加入者(被保険者)です。

<参考>協会けんぽHP 「出産で会社を休んだとき」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3290/r148/

●出産育児一時金
出産の費用に対する補助として
「出産育児一時金」が支給されます。

・出産育児一時金の金額
50万円/1児(産科医療補償制度未加入の病院での出産は48.8万円)

出産育児一時金は社会保険に加入している女性従業員だけでなく
被扶養者が出産した場合であっても支給されます。
(健康保険法 101条、114条)

<参考>協会けんぽHP 「子どもが生まれたとき」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3280/r145/

■ 出生時育児休業(産後パパ育休)

男性従業員が子の出生後、8週間以内に通算4週間まで
育児休業を取得できる休業で
2022年10月より新設された制度です。

2回に分割して取得可能であることや、
労使協定の締結により休業中に就労が可能になることから
より取得しやすくなりました。
以前も同時期に育児休業の取得が可能でしたが
いままでの育児休業(次項参照)とは別に取得することができます。

■ 育児休業

原則1歳に満たない子を養育する従業員が
申出をした場合、会社は休業を与えなければいけません。
(育児介護休業法 第5、6条)

育児休業は原則「子が1歳に達するまで」に
取得することが可能ですが、
子の1歳到達時に次の事項に該当している場合には
1歳6か月、2歳まで育児休業を延長することが可能です。

・保育園に入れない場合
・子を養育する者が、ケガ、病気等により
 養育することが困難となった場合    等

■ 育児休業の給付(雇用保険) 育児休業給付金

育児休業中に給与が支払われない場合、要件を満たせば
雇用保険の「育児休業給付金」制度により補填されます。

会社を休み、賃金の支払いを受けなかった場合に
産後57日目から原則、子が1歳に達する日までで支給されます。

●育児休業給付金の額
育児休業開始時賃金日額×支給日数(通常30日)の67%
(ただし育児休業の開始から6か月経過後は50%)

●受給できる従業員(要件):以下の条件をすべて満たす方
・雇用保険に加入している者
・育児休業開始前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上または
 就業時間が80時間以上ある月が12か月以上ある者
・育児休業期間中の1か月の出勤日数が10日以下または
 就業時間が80時間以下である者
・休業開始時の賃金に比べ80%未満の給与額である者

雇用保険加入期間が短い方や給与が80%以上支給されている方などは
支給要件から外れますのでご注意ください。
また、上記の要件を満たす育児休業取得中の男性も受給できます。

■ 育児休業等を理由とする不利益取り扱いの禁止・ハラスメント防止

育児休業等の申し出・取得を理由に、
解雇や退職強要、正社員からパートへの契約変更等の
不利益な取り扱いを行うことは禁止されています。

また、事業主には、上司や同僚からのハラスメントを防止する
措置を講じることが義務付けられています。

【ハラスメントの典型例】
・男性従業員が育児休業の取得について上司に相談したら
 「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、
 取得を諦めざるを得なかった。
・育児休業等を取得しようと同僚に伝えたら
 「迷惑だ。自分なら取得しない。あなたもそうすべき。」
 と言われ苦痛に感じた。
・妊娠したので休むことを伝えたら、
 「次の契約更新はしない」と言われた。

事業主は労働者個人の問題として片付けるのではなく、
雇用管理上の問題と捉え、適切な対応をとる必要があります。

~職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に
関するハラスメント対策やセクシャルハラスメント対策は
事業主の義務です!!~ 厚労省 雇用均等室パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000137179.pdf

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   ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
会社を退職後に受給可能なものはありますか。

【A.1】 
出産手当金、出産育児一時金については
要件を満たした場合、退職後でも受給可能となります。

●出産手当金
・被保険者の資格喪失をした日の前日(退職日)までに継続して
 1年以上の被保険者期間(健康保険任意継続の被保険者期間を除く)があること。
・退職日が産前産後期間中であること
 (出産手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること)
・退職日に出勤していないこと

●出産育児一時金
・妊娠4ヵ月(85日)以上の出産であること。
・資格喪失日の前日(退職日)までに継続して
 1年以上被保険者期間(任意継続被保険者期間は除く)があること。
・資格喪失後(退職日の翌日)から6ヵ月以内の出産であること。


※資格喪失後の給付は被保険者であった人の出産が対象となり、
被扶養者であった家族の出産は対象外です。

なお出産育児一時金は、退職後に配偶者の被扶養者となった場合には
配偶者の保険者へ申請することも可能ですが、
両方から重複して受給することはできません。
どちらで申請するか選択してください。

雇用保険の育児休業給付金は、
当初からすでに退職を予定しているのであれば、
育児休業給付の支給対象とならないため、退職後は支給されません。

☆     ☆     ☆

【Q.2】
パートや有期契約労働者でも産休、育休は申出があった場合、
取得させないといけないのでしょうか。

【A.2】
産前産後は、どのような雇用形態の方であっても
取得することが可能ですので、従業員から申出があった場合には
拒否することはできません。

育児休業は、会社が労使協定で
一部の労働者を育児休業の対象外とすることができます。

・雇用期間が1年未満
・週所定労働日数が2日以内
・1年以内(1歳以降の休業は6か月)以内に雇用関係が終了

この労使協定は労働基準監督署に提出する必要がありませんので、
もし対象外にしたい場合には、早めに作成して
会社で保管しておいてください。

その他、有期労働契約者は2022年4月より
育児休業を取得できる方の範囲が広がっています。

 ~2022年3月まで 
(1)同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
(2)子が1歳6か月に達する日までに

 労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の

 期間が満了することが明らかでないこと

   ↓   ↓   ↓

 2022年4月より 
  (1) 削除
  (2)のみ適用

産休、育休を取りたい従業員が
どのような契約か確認した上で、育児休業等が取得できるかどうか
確認してください。

~育児休業や介護休業をすることができる有期雇用労働者について~
厚労省 雇用均等室 パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r01_12_27.pdf