vol.206 建設業・運送業の労働時間上限規制

働き方改革において
労働時間の上限が設けられ、
すでに中小企業も2020年4月より施行となっていますが、
建設業および運送業は一定の猶予を設けられていました。
それがついに2024年4月以降 適用となります。
また「医師」「鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」も
同様に適用になります。

今回は
建設業および運送業(トラック)の労働時間上限規制
と併せて、改めて他の業種の労働時間上限の確認を
していきたいと思います。

■ 働き方改革で定められた労働時間の規制

すでに2020年4月に中小企業も対象となった
働き方改革の労働時間に関する内容は以下の通りです。

◎ 時間外労働の上限規制
「1日8時間まで」「1週間40時間まで」と
定められている法定労働時間を超えて労働させる場合には
「時間外・休日労働に関する協定届」いわゆる「36協定」を
締結し、労働基準監督署へ提出しなければなりません。
この36協定の労働時間の上限が定められました。

●一般的な36協定
【改正前】法的な拘束力なし(上限が厚労省の告示のみ)
【改正後】1か月45時間、1年間360時間まで

●特別条項付き36協定
【改正前】上限規制なし
【改正後】①1年間720時間以内
     ②2~6か月平均80時間以内(休日労働を含む)
      (2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、
       6か月平均すべてにおいて1か月80時間以内)
     ③1か月100時間未満(休日労働を含む)
     ④1か月45時間超えは年6回まで

改正後は罰則規定が設けられています。

■ 建設業や運送業が労働時間上限規制を猶予された背景

今回の労働時間の上限規制は
一般業種では2019年4月施行だったものですが、
建設業や運送業等を対象に
5年の猶予が設けられた背景としてはいくつかの理由があります。

・長時間労働
 建設業は、製造業や調査産業計と比べ、
 年間実労働時間は100時間以上もオーバーしています。
 特に中小企業・下請け企業では
 短納期の発注に追われることもあり、
 他産業では当たり前となっている週休2日をとれている会社は
 1割以下で、休日が取れないことも
 長時間労働の要因のひとつとなっています。

 運送業は、手待ち時間や渋滞等があることから
 どうしても労働時間が長くなりがちです。

・人手不足
 建設業・運送業ともに
 就業者の高齢化や若手人材の不足といった問題と
 直面しているのが実情です。
 長時間労働もあり、なかなか人材が集まらない
 業界になっています。

・事務書類の負担
 建設業では、施工計画書をはじめとする
 多くの書類を作成しなければなりません。
 そのため、事務書類の処理が
 業務の負担となるケースも多くあります。
 建設業の場合、工事の規模が大きくなるほど
 取引先の数も増え、発注者によって求められる書類が異なるため、
 書類の作成には多くの時間を費やすことになります。

■ 法改正後の労働時間の上限

2024年4月からは、建設業・運送業も
労働時間の上限を遵守しなければならなくなり、
働き方改革を推し進める必要がでてきます。
また運送業については、労働時間の上限だけでなく
1日の休息時間や運転時間も制限されています。

◎建設業
●一般的な36協定
【改正前】法的な拘束力なし
【改正後】1か月45時間、1年間360時間まで

●特別条項付き36協定
【改正前】上限規制なし
【改正後】①1年間720時間以内
     ②2~6か月平均80時間以内(休日労働を含む)
      (2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、
       6か月平均すべてにおいて1か月80時間以内)
     ③1か月100時間未満(休日労働を含む)
     ④1か月45時間超えは年6回まで

△建設業の例外規定△
災害時の復旧・復興の事業に関しては、
時間外労働と休日労働の合計について
上記②③は適用されません。
これ以外については一般業種と同じ条件とされるため
注意が必要です。

◎運送業(運航管理者等は一般の業種と同等の扱い)
●一般的な36協定
【改正前】法的な拘束力なし
【改正後】1か月45時間、1年間360時間まで

●特別条項付き36協定
【改正前】上限規制なし
【改正後】①1年間720時間以内
     ②2~6か月平均80時間以内(休日労働を含む)
      (2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、
       6か月平均すべてにおいて1か月80時間以内)
     ③1か月100時間未満(休日労働を含む)
     ④1か月45時間超えは年6回まで

※≪運転手限定≫自動車の運転業務の取り扱い
・年960時間(休日労働含まない)
・月平均80時間(休日労働含まない)
②、③、④は適用されない
※将来的には、一般則の適用を目指す

△運送業特有の規程(改善基準告示改正)△

・総拘束時間(休憩時間、手待ち時間含む)
  1日:原則13時間、最大16時間
    (15時間を超えるのは週2回まで)
 1か月:284時間
    (労使協定を結べば最大6か月310時間まで延長可)
  1年:原則3,300時間

・1日の休息時間  継続11時間を基本とし、9時間未満は不可
・1日の最大運転時間 
 始業時刻から48時間(2日)のうち、
 平均で1日あたり9時間
 さらに2週間の平均で1週間あたり44時間以内
・連続運転時間   4時間
 4時間以内、もしくは4時間が経過した直後に
 休憩を30分確保(休憩は10分以上の分割可)

厚労省リーフレット 「トラック運転者の改善基準告知が改正されます」
https://www.mhlw.go.jp/content/T_0928_4c_kaizenkijyunkokuji_L_T02.pdf

このように、特に運送業においては、時間外の上限だけでなく
拘束時間や休息時間なども細かく定められているため
2023年2024年4月以降のシフト作成にも注意が必要です。

■ 法改正で取り組むべき事項

建設業・運送業が働き方改革により
労働時間の上限が定められ、
今後どのように対応しなければならないのかを
省庁や協会が示しています。

・長時間労働の是正
 建設業、運送業ともに、労働時間が長くなりがちな業種です。
 労働時間の上限が定められたことにより、
 今後は長時間労働を是正するための対応が必要となってきます。

 具体的には
 建設業では、週休2日を導入すること、
 運送業では、ITを導入して手待ち時間の削減や
 渋滞情報を把握しておくことを推奨しています。

 また長時間労働を把握するために
 きちんとした労働時間管理も必須となります。
 労働時間をきちんと把握し、
 いつ、だれが、どのような場合に
 長時間労働になっているのかを確認し
 特定の労働者に仕事が集中しているようであれば
 仕事を分割して振り分けるなど、対策をとっていきましょう。

・離職率を下げる努力
 どちらの業界も、離職率が高く、
 また年齢が高い労働者が多いことも特徴的です。
 若い年齢層の労働者も入社していますが
 すぐに退職してしまい、その理由として
 休みがとりにくいことが挙げられています。
 若い労働者が離職しないよう
 上記でお伝えしたように、長時間労働を是正することや
 休みをとれるようなシフトにすることが
 離職率を下げることの1つとなります。

・生産性の向上
 どの業種でも業務を効率化し、
 生産性を向上させることが不可欠です。
 どのようにすれば仕事が平準化できるのか、
 効率的に動けるのか、を考えながら
 業務を行っていることが大切です。

建設業 働き方改革加速化プログラム //国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001226489.pdf

運送業 トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン //(公社)全日本トラック協会
https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/rodo/hatarakikata/actionplan_gaiyo.pdf

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   ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
建設業で、会社ではなく現場へ直行直帰する場合、
移動する時間は労働時間に含まれるのでしょうか。

【A.1】
・直行直帰の場合
 現場への移動時間は労働時間とみなしません。
 (直行先の現場から勤務が始まるため)
 この移動時間は通勤時間となります。

・会社へ出勤後、現場へ行く場合
 会社からの指示があるため、
 会社から現場までの移動時間も労働時間として捉えられます。
(会社に出勤した時点で労働の提供が始まっているため)

☆     ☆     ☆

【Q.2】
運送業のドライバーの休日は、
何時間以上、とらせなければならないのでしょうか。

【A.2】
原則としては

1日の休息時間に24時間を合わせたものが
休日とされています。
1日の休息時間は11時間(基本)のため、

  24時間+11時間=35時間

なので、休日を挟んだ勤務を設定する場合、
次の勤務開始は少なくとも前の勤務から
35時間以上経過してからにする必要があります。