vol.199 副業・兼業の対応

このところ、副業や兼業を認めている会社が多くなり
国の方針としても、副業等のガイドラインや
就業規則案を提示しています。

今以上に、副業等を認める会社が増えてくると予想され
その場合に会社側が気を付けなければならないことや
整備しておかなければならない規則等を確認していきます。

■ 副業、兼業のガイドライン

副業や兼業(以下、副業等、という。)を希望する労働者は
年々増えてきており、
また日本の人口減少による
労働力不足の解消が課題に挙げられていることから
国が副業や兼業の普及・推進を行っています。
そのうえで2022年7月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の
改定が行われました。

ガイドラインは、労働者が安心して
副業や兼業に取り組めるようにすることを目的として、
会社向けに副業や兼業を行う労働者の労働時間管理や
健康管理等の在り方を示したものです。

2022年7月、厚労省は
企業が労働者の多様なキャリア形成を推進することを
後押しする目的で、以下の内容をガイドラインに盛り込みました。

1.企業が、自社のホームページなどで
 「副業や兼業を許容しているか否か」
 「条件付きで許容している場合の条件内容」を
 公表することが望ましいこと
2.労働者が自らのキャリア形成に取り組むにあたって、
 1の情報を参考にすることが望ましいこと

この副業等は、「労働者」として雇われる場合だけでなく
請負等の個人事業主として独立する場合も含まれます。

~副業、兼業の促進に関するガイドライン 厚労省~
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf

■ 副業等のメリット、デメリット

副業等は、会社側、労働者側にメリットがあると考えらえますが、
デメリットも確認する必要があります。

【会社側】
メリット:
① 労働者が社内(本業)では得られない
  知識・スキルを副業等で得ることができる
② 労働者の自律性・自主性を促すことができる
③ 多様な働き方を認めることにより、
  優秀な人材の獲得・流出の防止ができる
④ 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、
  事業機会の拡大につながる
⑤ 柔軟な働き方を認める会社ということで、自社の魅力となり、
  結果として人材を雇用しやすくなる効果も期待できる

デメリット:
① 必要な就業時間の把握・管理が複雑となる
② 健康管理への対応、長時間労働の懸念
③ 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の対応

【労働者側】
メリット:
① 本業で安定した所得があることを活かして、
  収入を気にせずに自分のやりたいこと
  (社会貢献活動、文化・芸術的活動なども含む)
  に挑戦・継続できる
②  所得が増加する
③ 語学力やITスキルなど、
  社内では活かせないスキルを副業で活用することや、
  副業を通じて本業で役立つ実践的なスキルを
  身に付けることができる

デメリット:
① 長時間労働が常態化し、健康上の不安が生じることがある
② 職務専念義務、秘密保持義務、
  競業避止義務を意識することが必要
③ 社会保険に加入できないことがある、または
  両方とも加入して賃金額の合計で保険料が決定する
④ 雇用保険にはどこかの会社1つでしか加入できない、
  もしくは時間数が短いとどちらも加入できない場合がある
⑤ 確定申告が必要になる場合がある

会社側も今いる従業員だけでなく
良い人材がいればパートとして雇入れることが可能であり
特に中小企業の人手不足には、数時間でも働いてもらいたい、
という方の採用ができれば会社側のメリットは大きいと思います。

労働者側も他社でスキルを磨くこともでき、
それを本業に生かすことや、所得が増えることも
大きなメリットです。

■ 副業等を解禁する前におさえておくこと

本業の勤め先である会社と労働者との間において、
最低限押さえておきたいポイントになります。

(1)安全配慮義務
   会社側が、業務量・時間が過重であることを把握しながら、
   何らの配慮をせず、労働者の健康に支障が生ずるに至って
   しまうケースです。

 対策:
 ・長時間労働により労務提供上の支障が生じる場合は
  副業等を禁止する規定を設けておく、
 ・副業等の状況を労働者と定期的に話し合うこと
 ・健康上のリスクが高いと判断した場合は
  適切な処置を取れるようにしておくこと

(2)秘密保持義務
   労働者は、会社の業務上における
   秘密を守る義務を負っていると解されています。
   副業等で問題となり得るのは、
   労働者が業務上の秘密を他社で漏えいする場合や、
   他社の業務上の秘密を自社で漏えいする場合が考えられます。

 対策:
 ・就業規則等において、業務上の秘密が漏洩する場合には、
  副業等を禁止又は制限することができることとしておくこと
 ・副業等を行う労働者に対して、業務上の秘密となる情報の範囲や、
  業務上の秘密を漏洩しないことについて注意喚起すること

(3)競業避止義務
   競業避止義務を就業規則等で規定した場合であっても、
   自社の正当な利益を害する可能性がある場合にのみ認められるため、
   同業種であるからといって必ずしも認められるわけではありません。
   従って、会社側は自社の正当な利益を明確にしておきます。

 対策:
 ・就業規則等において、
  競業により自社の正当な利益を害する場合には、
  副業等を禁止又は制限することができるとしておくこと
 ・副業等を行う労働者に対して、禁止される競業行為の範囲や
  自社の正当な利益を害しないことについて注意喚起すること
 ・他社の労働者を自社でも使用する場合には、
  当該労働者が当該他社に対して負う競業避止義務に違反しないよう
  確認や注意喚起を行うこと

(4)誠実義務
   労働者は使用者や会社の名誉・信用を損なわないように、
   誠実に行動するよう要請されます

 対策:
 ・就業規則等において、自社の名誉や信用を損なう行為や、
  信頼関係を破壊する行為がある場合には、
  副業等を禁止又は制限することができること
 ・副業等の届出等の際に、それらのおそれがないか確認すること

■ 会社が副業等を解禁するためにやるべきこと

副業等を解禁する場合、会社が就業規則等を
変更しなければならない場合があります。

(1)就業規則の変更
   「副業等不可」の条項がある場合は、「副業等可」の
   規定に変更する必要があります。
   特に、会社に事前申請が必要かどうか、は
   必ず記載しておく項目です。
   副業等は許可するが、どこで、どのような仕事に、どれくらいの時間
   働くのかを把握しておくためです。
   また健康上や職務上、問題がある場合には
   副業等を中止や禁止する旨の記載もあったほうがよいでしょう。

(2)副業の労働時間の上限を設けるのか、休日はどうするのか、
   同業他社の勤務の認めるのか、等
   会社側で取り決めをしておいたほうがよいでしょう。

(3)誓約書、合意書の提出義務
   全従業員を対象とした就業規則よりもさらに内容を具体化し、
   届出人個人を対象とした約束事を定めるための書面です。
   誓約書では、就業規則に重ねて
   競業避止、秘密保持義務等の事項を記載したうえで、
   生産性低下を防止するために、
   ・副業先勤務日数や勤務時間、
   ・人身傷害の恐れや夜勤のないこと、
   ・定期的な現場上長との面談実施、
   ・健康診断を受診
   など、
   会社が副業等を認めても生産性低下が生じないようにするための
   具体的な手段を記載し労働者との合意を得ていくことが重要です。

 厚生労働省のパンフレット P9.12.14 に合意書案が出ております。
 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf

■ 副業等のトラブル回避のために会社側がやるべきこと

会社にも労働者にもメリットがある副業等ですが、
今いる労働者が他社で働く場合や、
すでに他社で働いている労働者をパートとして
雇入れる場合に、会社側はいくつか注意が必要です。

(1)労働時間の把握、割増賃金の支払い
   労働基準法第38条では
   「労働時間は、事業場を異にする場合においても、
   労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。
   つまり、本業と副業の労働時間は通算されます。
   そして、労働時間を通算した結果、1日8時間、週40時間の
   法定労働時間を超えて労働させる場合は、
   時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません。

   そして時間外労働として割増賃金を支払うのは、
   どちら(誰)かということですが、
   割増賃金を支払う義務があるのは、
   雇用契約を「後からした事業主」ということになります。

   そのため雇用する際にすでに労働者が
   別の雇用主に雇用されている場合には、
   前の職場で何時間働いたか、
   どこから1日8時間、1週40時間を超えて割増賃金の支払いが必要か、
   を確認し、必要であれば割増賃金を支払うことになります。

 【参考】簡便な労働時間管理の方法「管理モデル」
  なお、上記の原則とは別に
  簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)
  があります。これは労働時間の申告等や通算管理における
  労使双方の手続上の負担を軽減し、
  労働基準法が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法です。

  具体的には、副業等の開始前に、
  A社(先契約)の法定外労働時間と
  B社(後契約)の労働時間について、上限規制
  (単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内で
  それぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うこととする、
  という取り決めをします。
  これにより、副業等の開始後は、
  他社の実労働時間を把握しなくても
  労働基準法を遵守することが可能となります。

  「管理モデル」は、副業等を行おうとする労働者に対して
   A社(先契約)が管理モデルによることを求め、
  労働者及び労働者を通じて使用者B(後契約)が応じることによって
  導入が可能となります。

(2)労働者の健康確保
   会社は労働安全衛生法第66条等に基づき、
   健康診断等を実施しなければなりません。
   一般健康診断は、常時使用する労働者や短時間労働者が
   実施対象となり、常時使用する短時間労働者とは、
   以下の①、②のいずれをも満たす労働者です。

  ①期間の定めのない労働契約により使用される者
   (期間の定めのある労働契約により使用される者であって、
   契約期間が1年以上である者並びに契約更新により
   1年以上使用されることが予定されている者及び
   1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること
  ②1週間の労働時間数が当該事業場において
   同種の業務に従事する通常の労働者の
   1週間の所定労働時間の3/4以上であること

   ②の判断にあたって、副業等の労働時間の通算はされませんが
   会社として副業等を認め、実際に労働者が副業等をしているのであれば、
   必要に応じて健康確保措置をするほうがよいでしょう。

(3)秘密保持義務、競業避止義務の遵守
   労働者に副業等を認めた場合、
   会社の業務に関する秘密が漏洩する危険性があります。
   また、会社で培ったノウハウや情報を利用して
   会社と競合する営業を始める労働者が出てくるかもしれません。

   したがって、労働者に副業等を認めるにあたっては、
   会社の秘密情報を漏洩しないことや、
   会社と競業する副業等は行わないことを誓約する
   誓約書を提出させることも必要だと考えます。

(4)保険加入
   社会保険、労働保険の取り扱いは下記の通りとなります。

  社会保険:
   社会保険は事業所毎に被保険者になるかどうかを判断します。
   正社員の4分の3以上の労働時間・労働日数がある場合や
   社会保険適用拡大の対象会社では
   週20時間以上勤務でも被保険者となるため、
   正副の事業所の規模と労働内容によっては2か所で
   加入させなければならない労働者が出てくる可能性があります。
   その一方、主の事業所と副業等のどちらも
   労働時間等が短い場合には、社会保険に加入できない場合もあります。

  労災保険:
   労災保険は、被保険者という概念がないことから
   就業している先すべてで加入することになります。
   給付は主である事業所、副業等の事業所の賃金を
   合計して計算されます。

  雇用保険:
   雇用保険は、社会保険や労災保険と違い
   1人あたり1か所でしか被保険者になれないため
   主の事業主で要件に該当した場合には加入することになります。
   そのため副業等の事業所では加入できません。
   ただし令和4年1月より 65 歳以上の労働者で本人の申出があった場合
   主の事業所では被保険者要件を満たさない場合であっても、
   副業等の事業所の労働時間を合算して
   雇用保険が適用されます。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
  ここが知りたい! Q&A
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【Q.1】
副業等は必ず解禁しなければならないのでしょうか。

【A.1】
副業等をさせたくない、というのであれば
就業規則にその旨を記載しておけば原則解禁となりません。
守秘義務が強い業種や、そもそもすでに労働時間が長い業種などは
副業等を認めることが難しいと考えるためです。

副業等を認めるのであれば、
上記に書いた通り、副業等する旨を報告してもらい
労働者のメリットだけでなくデメリットや気を付けなければならないことを伝えて
理解をしたうえで副業等をするようにしてください。

☆     ☆     ☆

【Q.2】
副業等をするにおいて、他の雇用主にやとわれる「労働者」と
やとわれない「個人事業主」とはどのような点が違うのでしょうか。

【A.2】
労働者である場合と、個人事業主で副業等を行う場合は
以下の点が違います。

●労働時間
 労働者である場合は、労働時間を通算し、
 法定労働時間を超えた場合には、あとから契約した会社において
 割増賃金の支払いが必要です。
 個人事業主の場合は、労働基準法上の労働者に該当しないことから
 副業の時間は「労働時間」とされないため
 割増賃金の支払いは不要です。
 ただし安全配慮の観点から長時間労働をしないよう、
 個人事業主であっても時間の把握はしておくほうがよいでしょう。

●確定申告
 労働者である場合は、複数の事業所から給与をえている場合には
 原則確定申告が必要です。
 個人事業主の場合は、
 原則副業等の所得が20万円を超えた場合に確定申告が必要です。
 確定申告をすることにより、
 経費を計上することができる、副業等での赤字を繰り越すことが可能です。

●保険
 労働者である場合は、要件によっては社会保険に加入することになり
 労災保険は労働者である限り、加入することになります。
 個人事業主である場合は、保険の加入はありません。
 特に労災保険に加入しないため、事故にあった場合にどうするのか、
 の対策を整えておく必要があります。


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