vol.196 月60時間超の時間外労働の割増賃金

2023年4月より、中小企業でも月60時間以上の
時間外労働の割増賃金率が
現在の25%から50%に引き上げられます。
すでに大企業では2010年4月より施行されていましたが
中小企業の猶予期間が2023年3月で終了し、
大企業と同じ要件になります。

今回は、今後の割増賃金について確認していきます。

■ 時間外労働とは

労働基準法で労働時間は
原則1日8時間、1週40時間までと定められています。
この法定労働時間を超えて労働をさせた場合が、
労働基準法の(法定)時間外労働となり
割増賃金の対象になります。
そして法定時間を超えて労働者に労働をさせる場合には

・時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)

この協定書を作成し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

■ 時間外労働を行ったときの割増賃金

労働基準法37条1項では、割増賃金について

「2割5分以上5割以下の範囲内で
それぞれ政令で定める率以上の率で計算した
割増賃金を支払わなければならない。
ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について
60時間を超えた場合においては、
その超えた時間の労働については、
通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率
計算した割増賃金を支払わなければならない。」

と規定されています。

今までは一律「25%(2割5分)」で計算していましたが
上記の規定により、2023年4月から中小企業も
60時間を超えた時間外労働を行った場合には、
50%以上の率で割増賃金を支払うことになります。

そのため今後は、時間外労働を
2つに分けて集計・金額計算する必要があります。
60時間以下・・・・25%で計算
60時間超・・・・・50%で計算

 ●深夜労働との関係
 60時間超の時間外労働を行い、
 深夜時間(22:00~翌日5:00)の勤務になる場合は、
  時間外割増 50% + 深夜割増 25%=75%
 で支払う必要があります。

 ●法定休日労働との関係
 1か月60時間の法定時間外労働の算定には、
 法定休日(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、
 それ以外の休日(例えば土曜日)に行った
 法定時間外労働は60時間に含まれます。
  ※法定休日労働の割増賃金率は、35%

このように給与計算も勤怠計算も複雑になる可能性があり
今まで以上に勤怠管理や給与計算が重要になってきます。

 割増賃金の計算例

よく「時給のアルバイトの計算は、時給×1.0や、
時間外を行ったときには、時給×1.25で計算するのはわかるが
月給制でも時間外や深夜の割増賃金の計算が必要か」と
問い合わせがあります。
月給制でも当然、割増賃金の対象となった場合には
その支払いが必要です。

<計算例>

    基本給203,000円、役職手当20,000円、職務手当10,000円、
     皆勤手当10,000円、 総支給額243,000円
     年間休日122日、1日の所定労働時間8時間の場合

 ①1年間における1か月平均所定労働時間
   (365日-122日)×8時間÷12カ月=162時間

 ②1時間あたりの賃金
   243,000円÷162時間=1,500円

時間外労働を1か月80時間行った場合の割増賃金
 今までの計算  1,500円×1.25×80時間=150,000円
    ↓
 今後の計算   1,500円×1.25×60時間=112,500円
         1,500円×1.50×20時間= 45,000円 
         112,500円+45,000円=  157,500円

このように今後は
60時間超えの割増賃金率が変更になることで

管理・計算が複雑化する上、
人件費も157,500円-150,000円=7,500円増加

することになります。

■ 代替休暇

1か月60時間を超える法定時間外労働時間に対する
引き上げ分の割増賃金のかわりに、
有給の休暇(代替休暇)を与えることができます。

代替休暇の制度の目的は、

長時間労働をした労働者に対して、
会社が残業代を支払う代わりとして

休息の機会を与えることにより、
労働者の健康を守ることにあります。

この制度を導入するには、
過半数組合(ない場合には過半数代表者)との間で
代替休暇の時間数の具体的な算定方法などを定めた
労使協定を締結する必要があり、
また就業規則の変更も必要となります。
労使協定の労働基準監督署への届出は不要ですが、
就業規則は従業員が10人以上であれば届出が必要です。

代替休暇はあくまで「60時間を超える部分」のみが該当となり、
1か月60時間を超えない時間数や、
60時間を超えても、25%で計算する部分については
必ず賃金で支払わなければなりません。

また、代替休暇を取得するかどうかは、
あくまで労働者の任意によるものです。
労働者が50%の割増賃金の支払いを希望した場合には、
代替休暇ではなく、賃金の支払いが必要となります。

●労使協定で定める事項

(1)代替休暇の時間数の具体的な算定方法
  代替休暇の時間数

  =(1カ月の法定時間外労働時間数-60)×換算率
 ※換算率

 =(代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率)

  -(代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率)

<計算例> 

   時間外労働を1か月90時間行った場合 
   1日の所定労働時間は8時間
   90時間-60時間=30時間分が該当
   30時間×25%(50%-支払い必須の25%)=7.5時間

(2)代替休暇の取得方法・単位
  代替休暇の単位は、「1日または半日」とされています。
  時間単位でないことも注意が必要です。

 上記(1)の計算例の場合、
 代替休暇は7.5時間分ですので、
 1日の所定労働時間である「8時間」には満たないため
 半日(4時間分)の代替休暇が取得可能です。

 端数の3.5時間(7.5時間-4時間)については
  ①有給休暇の時間単位取得を就業規則で定めている会社であれば
   有給休暇と合算して1日または半日単位にして与える
  ②3.5時間×25%(未払いの60時間超の割増率)分の
   割増賃金を支払う
 のどちらかの対応をすることになります。

(3)代替休暇を与えることができる期間
  代替休暇は、法定時間外労働が
  1か月60時間を超えた月の賃金締切日の翌日から
  2か月間以内の期間で与えることを定めてください。

(4)代替休暇の取得日の算定方法、割増賃金の支払日
  代替休暇は、労働者がそれぞれの意思で取得するものであるため、
  会社は、代替休暇の取得希望の有無を労働者に確認する必要があります。

 2023年4月までに会社がやるべきこと

時間外の割増賃金率が上がることにより、
60時間以上の時間外を行った場合には人件費がその分増加します。
会社の費用の面でもかなりの額になる可能性があり、
また長時間労働を削減する取り組みを
国が奨励していることもあり、いかに労働時間をおさえるか、が
今後の課題となってきます。

1. 労働時間の適正な把握につとめる
 ・本当に業務開始した時間から終了した時間で労働時間を計算しているか
 ・休憩はとれているのか
2. 代替休暇の検討
 ・代替休暇の採用を検討し、1か月の実労働時間を減らす
3. 時間外削減、業務の効率化
 ・本当に必要な時間外労働か
 ・会社の指示で時間外労働を行っているのか
 ・システム等で業務を効率化できないかの検討

以上は一例ですが、
極力、1か月の時間外労働を60時間未満に抑えるようにしましょう。
管理や計算が複雑化し、費用が上がることだけでなく、
そもそも36協定での1か月の時間外労働の上限が
原則45時間になっていることから、
この時間を超えないようにしていくことが必要です。

厚生労働省 パンフレット「割増賃金率が引き上げられます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
   ここが知りたい! Q&A
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【Q.1】
変形労働時間制を導入している会社ですが、
その場合でも時間外労働が月に60時間を超えた場合でも
割増賃金率を50%で計算しなければならないのでしょうか。

【A.1】
変形労働時間制を導入している会社でも
割増賃金の支払いは必要で、月60時間を超えた場合には
50%で計算して支払う必要があります。

☆     ☆     ☆

【Q.2】
36協定で、時間外労働が「1か月45時間まで」と
定められていると思いますが、1か月60時間を超えて
時間外労働させても違法ではないのでしょうか。

【A.2】
月60時間の残業時間を超えても、
「特別条項付」の36協定を締結していれば、1か月の残業時間が
60時間以上となっても違法にはなりません。

特別条項付の36協定を締結する際、下記の点に注意が必要です。
・時間外労働は年720時間以内
・1年を通して常に

 時間外労働と休日労働の合計時間が1か月100時間未満
・2~6か月平均の時間外労働と休日労働の合計時間が
 1か月あたり80時間未満
・時間外労働が月45時間を超えられるのは、年に6回が限度

こちらをすべてクリアする必要があります。

ただし時間外労働や休日労働と過労死には相関関係があり、
月間の残業時間が45時間を超えると
脳や心臓疾患の発症リスクが高まります。
60時間を超える時間外労働は
さらに過労死および健康障害のリスクが高まるため、
安全配慮義務や費用、事務作業煩雑の観点からも
残業時間削減のための対応が求められます。


  


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