vol.195 在宅勤務と労災
新型コロナウイルスの影響により、
テレワーク(在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス等)で
業務を行っている方も多くなってきました。
就業場所が会社ではない場合であっても
業務災害が起きた場合、労災保険は適用となります。
ただし業務中に起きた事故なのか、業務時間外で起きた事故なのか
証明が難しいことも事実です。
今回は、テレワークの中でも、現在の状況では在宅勤務が多いため
在宅勤務の労災認定について確認していきます。
□ 労災保険とは
労災保険とは、業務上の事由または通勤による
労働者の負傷・疾病・障害・または死亡に対して
労働者やその遺族のために必要な保険給付を行い、
あわせて被災労働者の社会復帰の促進等を行う制度です。
労災保険が適用になるケースは
「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
業務災害とは、業務が原因となって発生した災害であり
業務と傷病等との間に一定の因果関係があることをいいます。
「事業主の支配下、管理下で業務に従事している場合」が
一般的ですが
「事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合」
も業務とみなされ、テレワークはこちらに該当します。
テレワークのみでなく、出張中などもこれに含まれ
この業務中に事故等にあった場合には、業務災害と認められます。
通勤災害とは、通勤により被った災害をいいます。
在宅勤務ですと通勤がないため、
通勤災害は該当しないことになります。
□ 在宅勤務中の労災の適用
上記の通り、在宅勤務であっても業務中であれば
労災保険は適用となります。
ただし在宅勤務中の事故で労災と認められるためには
注意が必要です。
(1)業務時間と私的時間の区別をする
業務中なのか、私的な時間なのかを区別しておく必要があります。
その日のスケジュールをたてておくことで、
その時間に事故にあった時間帯が
業務中であるかを判断することが可能です。
また日頃より業務日報の作成、提出をしておくとよいでしょう。
(2)業務時間の記録と業務進捗の適宜報告をする
予定していた業務が問題なく進まず
予定通りではなかった場合に、
予定を変更して休憩時間をずらしたり
残業をすることにより
結果として業務時間が変更になり、
変更した時間内に事故にあう可能性もあります。
進捗状況をその都度報告し、
予定が変更になった場合はその旨を伝えることにより、
会社側が時間管理をしていることの証明になります。
(3)業務場所の特定
在宅勤務を行う場合、その場所はどこか
リビングなのか自分の部屋なのか、
そしてケガをした際、どこでどのようにケガをしたのか
を記載する欄があるため、説明できるようにしておくことが必要です。
□ 在宅勤務中の労災事故の事例
在宅勤務中のケガについて、
どのような場合であれば労災と認められ、
どのような場合が認められないのか確認していきます。
ただしあくまで労災事故かどうかを判断するのは
労働基準監督署ですので、
下記の事例は可能性の話になります。
<災害事例①>
業務中に自宅でパソコン業務を行っており、
かばんから資料を出そうと思い立ち上がった際に
椅子に足を引っかけてしまい捻挫した。
↓
労災認定される可能性 あり
業務中のことであり、また「資料を取る」という行為も
業務に関連する行為であることから
認定される可能性が高いです。
<災害事例②>
業務で書類の製本作業をしている際
カッターで指を切ってしまった。
↓
労災認定される可能性 あり
業務中のことであり、また「製本作業」という行為も
業務に関連する行為であることから
認定される可能性が高いです。
<災害事例③>
お昼休み中に、外で食事をしようとレストランへ行った際
転倒して足を骨折した。
↓
労災認定される可能性 なし
休憩中の出来事であり、業務と関係性がないため
認定されません。
<災害事例④>
在宅勤務の日、休憩中に洗濯物を取り込もうとして
ベランダへ出たが、段差につまずき捻挫した。
↓
労災認定される可能性 なし
休憩中の出来事であり、業務と関係性がないため
認定されません。
<災害事例⑤>
在宅勤務で慣れない椅子で業務を行っていたためか
腰痛になった。
↓
労災認定される可能性 かなり難しい
自宅は会社とは違い、作業に適した机や椅子が
整備されていないことがあります。
自宅でいつもとは違う椅子などで作業することにより
腰痛が出た、悪化した、等があるかもしれません。
在宅勤務に限らず、通常の業務中の腰痛であっても
腰痛の認定は難しく、判断までに時間がかかります。
腰痛の労災認定の基準については、
「業務上腰痛の認定基準等について」があり
これに労災の対象となる要件がのっています。
この中にデスクワークの腰痛は該当しないため
認定される可能性はかなり低いと考えられます。
~厚労省リーフレット 業務上腰痛の認定基準等について~
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/111222-1.pdf
□ その他在宅勤務中の災害防止における注意点
在宅勤務における労災は、
実際に災害が起こることを想定するのみならず、
災害を防止するための対策を
在宅勤務者に徹底しておくことが必要です。
特に眼精疲労や腰痛といった疾病を防止する対策として
労働安全教育を実施する等
会社から情報提供を行っていくことも
災害防止に不可欠と言えます。
「自宅で仕事をするので、労働者の自己責任だ」
とならないよう気を付けてください。
~厚労省 自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備~
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01603.html
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
在宅勤務中で、業務を行っていた際に発生した
ケガはすべて労災保険の対象となるのでしょうか。
【A.1】
すべて労災保険の対象となるわけではありません。
労災保険の業務災害の要件として
「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件が必要です。
業務遂行性とは、
労働者が労働契約に基づいて会社の支配下にある状態のこと
を言います。
在宅勤務中は
「事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合」
に該当するため、業務遂行性あり、と判断されます。
業務起因性とは、
負傷や疾病が業務に起因して生じたものであること
を言います。
業務に起因して生じたのかどうかを判断するため
業務時間と私的時間をきちんと区切り
いつ、どこで、どのように災害が起きたのか、を確認し、
業務起因性があれば、労災事故に、
私的な時間でケガ等をしたのであれば、労災とは認められません。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
在宅勤務中にケガをしましたが、
業務中か私的時間か判断がつきません。
このような場合、労災申請はできないのでしょうか。
【A.2】
労災事故かどうかの判断をするのは
労働基準監督署になります。
業務中か私的時間か判断がつかない場合には
一度、労働基準監督署へ相談してみてはいかがでしょうか。
またそれでも判断できない場合には
まずは労災の書類を提出し、労働基準監督署の詳細な判断を仰ぐ
ということも可能です。
会社側が「業務中ではないので会社の証明はできない」と言っても
労働者が「業務中のケガであり労災だ」という場合には
会社の証明がなくても、労災の書類を提出することは可能です。