vol.194 社会保険の適用拡大
社会保険は、
5人以上の従業員を使用している適用業種の個人事務所
もしくは法人はすべて社会保険の加入義務があります。
加入すべき従業員の要件は、
本来、正社員か正社員に準ずる勤務の者でした。
しかし、2016年10月より
501人以上の従業員がいる会社は
社会保険の適用拡大が義務化され
社会保険の加入要件に入っていなかった従業員であっても
加入すべき条件が変更となっております。
この501人以上が、2022年10月より101人以上に変更となり、
2024年10月には51人以上となります。
2022年10月からの適用拡大で
該当になる会社があると思いますので
内容を確認していきます。
□ 社会保険の加入要件(原則)
一般的に、社会保険の加入に該当する事業所、従業員は
下記の通りとなります。
【適用事業所】
・事業主を含む従業員1人以上の会社、国や地方公共団体などの法人
・常時使用の従業員が5人以上いる、一部の業種を除く個人事業所
【被保険者となる従業員】
・常時使用される人(いわゆる正社員)
・パートでも1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、
同じ事業所で同じ業務をおこなっている
正社員など一般社員の4分の3以上勤務の従業員
パートの方であっても、労働時間、労働日数両方が
正社員の4分の3以上の場合には、社会保険の加入が必要です。
□ 社会保険の適用拡大
一定規模の事業所に雇用される、
社会保険の加入要件の原則から外れるパート・アルバイト従業員に対して
社会保険への加入範囲を拡大していく動きです。
2016年開始時~現在は501人以上でしたが、
2022年10月からは101人以上の事業所で働く従業員も
適用対象となるものです。
これに該当する事業所を「特定適用事業所」といいます。
今回は、10月からを見据えて101人以上として
説明していきます。
【特定適用事業所】
101人以上のカウントの仕方は
法人であれば法人番号が同一の会社ごと
個人であれば個々の事業所ごとになります。
36協定等とは違い
事業所(本社、支店)ごとではないので注意が必要です。
また人数は
フルタイム勤務者 + 週労働時間がフルタイム勤務の3/4以上
の従業員数で決定されます。
(注:適用拡大により新たに該当になる従業員(短時間労働者)はカウントしない)
この人数が101人以上である場合には
10月より適用拡大の対象事業所となります。
【新たに被保険者となる従業員】
1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、
同じ事業所で同じ業務をおこなっている
正社員など一般社員の4分の3未満の従業員で、
(1)週の所定労働時間が20時間以上であること
契約上の所定労働時間であり、残業時間は含まない
(2)月額賃金が8.8万円以上であること
基本給および諸手当を含んだ金額
残業代、精皆勤手当、家族手当、通勤手当は含まず
(3)2か月を超える雇用の見込があること
(4)学生ではないこと
以上4点のすべてに該当する従業員は
適用拡大の会社の「短時間労働者」となり
会社の社会保険に新たに加入することになります。
また現在、3.の雇用見込みの部分が
「1年以上見込まれること」となっていますが、
2022年10月より、「2か月を超える」に変更となります。
□ 会社がやるべき事前準備~資格取得まで
適用拡大に該当する会社は、
社会保険に新たに加入する従業員に対して
下記の業務を行う必要があります。
(1)短時間労働者のピックアップ
現在は要件に該当しないが、
今後は社会保険に加入させる必要があるかどうかの確認
(2)新たに加入する従業員への説明会の開催、面談
短時間労働者になる従業員に対し、
説明会や個別の面談を行う
(3)該当者は10月に資格取得手続きを行う
●説明会、面談にあたっての注意点
・社会保険に加入した際の保険料と給付の説明
今後、給与から控除される社会保険料の金額や
社会保険に加入した際に受けられる給付について伝えてください。
例えば、傷病手当金や出産手当金が受け取れる、
将来もらえる年金の額が増える、等です。
その代わり、保険料が給与から差し引かれるため
手取りが少なくなる旨の説明も必要です。
・今まで国民健康保険、国民年金に加入していた場合
国民健康保険、国民年金に加入し
ご自身で保険料を支払っていた方は、
今後、会社で社会保険に加入する旨をお住いの市町村に伝えて
解約の手続きをしてください。
新しい被保険者証を持参してその旨を伝えれば
スムーズに切り替えが可能です。
なお前納等で、すでに国民健康保険、国民年金の
保険料を支払っている場合でも
窓口でその旨を伝えてれば返金の手続きをしてくれます。
・今まで家族の被扶養者になっていた場合
今まで社会保険の被扶養者の範囲内で働いていて、
家族の被扶養者であった場合、
被保険者である家族の会社に被保険者証を返却して
被扶養者から外す手続きをとってください。
これに該当する従業員向けに特に注意すべき点があります。
被扶養者になっていた場合
今まで被扶養者分の保険料の支払いはありませんでしたが、
社会保険に加入することにより、保険料の支払いが発生します。
保険料を支払う分、将来もらえる年金が多くなることや
傷病手当金の給付なども新たに受けられるようになりますが、
費用負担に難色を示し
「被扶養者のままでいたい」という方もいらっしゃるかもしれません。
今まで同様、被扶養者のままでいたい、というのであれば
労働時間を減らすことも考えられます。
制度の説明と一緒に、
今度どのように働いていきたいのかを話し合ってください。
□ 社会保険の適用拡大によって予想される影響
社会保険の適用対象が拡大することで、
「短時間労働者」を社会保険に加入させなければならない
会社が増加します。
(1)会社への影響
会社への影響は、「社会保険料の増加」です。
社会保険料は、労使折半となっているため
保険料の半額を会社が負担しています。
社会保険の加入者が増えれば、その分会社の負担額も大きくなります。
厚生労働省に保険料のシミュレーションがありますので
そちらを活用しながら資金繰りを確認していきましょう。
厚生労働省 社会保険適用拡大 特設サイト 保険料シミュレーター
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi/#%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%99%BA%E6%96%99%E3%81%8B%E3%82%93%E3%81%9F%E3%82%93%E3%82%B7%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC
また加入者が多くなれば、
資格取得や喪失の事務作業の手間もかかることになります。
(2)従業員への影響
従業員への影響は、「社会保険料の給与天引き」と
「被扶養者になっている方は被扶養者から外れる」、
メリットとしては、「社会保険の給付が受けられる」
「将来もらえる年金額が増える」ことです。
特に今まで被扶養者になっていた方は
保険料を支払わずに被保険者証の発行や
国民年金第3号になっていましたが、
会社の社会保険に入ることにより、
保険料の給与天引きが始まり
被保険者証も新しくなります。
給与額の手取りも変わることから
従業員より労働条件の変更を希望してくる方もいるかもしれません。
会社と従業員双方がよく話し合って
今後の働き方を決めるとよいでしょう。
なお、特定適用事業所の101人の要件は、
2024年10月より51人以上に再改正となります。
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
2022年10月時点では、社会保険加入者が
90名のため、特定適用事業所に該当しませんが、
11月に15名の入社を予定しており
101人を超える社会保険加入者の特定適用事業所になります。
この場合、どのタイミングで特定適用事業所となるのでしょうか。
【A.1】
101人を超える時点で、特定適用事業所となります。
その際には資格取得届と一緒に
「特定適用事業所該当届」を日本年金機構に提出してください。
なお、2022年10月時点で、
社会保険加入者数が101人を超えている特定適用事業所は
特定適用事業所該当届の届出は不要です。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
現在、家族の被扶養者になっており、
年収130万円を超えないように働いています。
被扶養者の年収130万円の基準が
年収106万円(月収 88,000 円)になるのでしょうか。
【A.2】
今回は被扶養者の要件の変更ではなく
勤務先の会社が特定適用事業所に該当した場合の
社会保険に加入するかどうかの要件変更です。
そのため年収130万円未満であっても
勤務先の社会保険加入要件にあてはまる場合には、
被扶養者から外れて、ご自身で社会保険に加入することになります。
☆ ☆ ☆
【Q.3】
就労先が2か所でどちらもアルバイト扱い、
1週間の所定労働時間がどちらも20時間の
特定適用事業所です。
この場合、両方の社会保険に加入することになるのでしょうか。
【A.3】
2か所の会社で働いており、どちらも
・週20時間勤務
・1か月の賃金が8.8万円以上
・特定適用事業所である
場合には、両方で社会保険に加入することになります。
その場合、各会社での賃金額で資格取得をし
「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」も一緒に提出します。
社会保険料は、両方の賃金を合計した金額を按分して
決定することになるため
両方の会社に「もう1つの会社でも社会保険に加入する」旨を
伝える必要があります。
日本年金機構 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.html