vol.222 社会保険料の変更時期 

社会保険料は原則、毎月同じ金額を控除していますが、
最低でも年に1回、保険料を改定もしくは改定かどうかの確認を
しなければならない時期があります。

また所得税や雇用保険料のように
総支給額で保険料が確定する、というわけではないため
いつから、いくらの金額を引いてよいのかわかりません、
という問い合わせを多くいただいています。

今回は社会保険の基本をおさらいした後、
社会保険料の変更の時期や
どのような手続きが必要なのかを確認していきます。

■ 社会保険の適用

社会保険に加入すべき事業所と労働者の要件は
原則下記の通りです。

●適用事業所
  法人の事業所(1名から加入)
  従業員を5人以上使用する個人事業所(一部除外業種あり)

●被保険者
  ・51人未満の事業所 
   1週間および1か月の所定労働時間が通常の労働者の
   4分の3以上の者
  ・51人以上の事業所 
   ①週の所定労働時間が20時間以上であること
   ②雇用期間が2か月を超えて見込まれること
   ③賃金月額が8.8万円以上であること
   ④学生でないこと

なお労働者数のカウントのしかたは

フルタイム労働者の人数

   +
週労働時間がフルタイム労働者の4分の3以上の人数

で51人以上かを判断します。
被保険者になるかどうかは、
勤め先の会社の規模によって変わります。

その他、社会保険の加入義務がない事業所でも、
一定の条件を満たせば任意で加入することができます
その場合には、被保険者となるべき者の2分の1の同意が必要です。

■ 社会保険料の金額

社会保険料は給与の額から「標準報酬月額」を決定し
「社会保険料額表」に当てはめて実際の保険料を決定します。

「標準報酬月額」とは、
社会保険の計算のために使う「目安(基準)」の賃金です。

従業員に支払う賃金は、
残業の有無や手当などで月ごとに変動があることが大半です。
実際に支払われた賃金額で毎月細かく計算するのは大変なため、
大体の目安となる金額でランク分けをして保険料を計算します。
電車の運賃が一定の区間ごと(『~10km』、『~15km』等)
に決まっているような感じをイメージしていただくと
よいかもしれません。

この金額(標準報酬月額)は年金だけでなく
出産や傷病の給付の計算にも使用されます。

厚生年金保険料は全国一律の料率ですが、
健康保険料は、都道府県別に料率が設定されています。
料額表を確認する際には該当の都道府県のものを使用してください。

~協会けんぽ 都道府県毎の保険料額表~
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/

 ●社会保険料の計算方法
健康保険料 = 標準報酬月額 × 健康保険料率
被保険者が負担する健康保険料 = 健康保険料 ÷ 2

被保険者が負担する健康保険料は企業と折半になるため、
「健康保険料 ÷ 2」で計算することで、
被保険者の負担分を算出します。

■ 社会保険料の決定・変更

社会保険料を控除の開始・変更するタイミングを確認していきます。

(1)資格取得時 
社会保険の資格取得をした際、社会保険料の控除が開始となります。

健康保険法第167条および厚生年金保険法第84条にて
「事業主は、(中略)
被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料
(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、
前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)
を報酬から控除することができる。」
とされています。

なので、入社した月(初回)の保険料は、
入社月の翌月に支給される給与から控除します。
(公共料金や携帯電話の利用料が翌月に引き落とされるイメージです)
例>4月1日入社 給与締日:15日 給与支払日:当月25日 の場合
  4月25日支払 社会保険料 控除なし
  5月25日支払 社会保険料 控除(4月分)
となります。

なお社会保険料は月単位での計算となるため、
月の途中で入社、または退職しても日割り計算はありません。
入社が4/1でも4/30でも4月の保険料は原則1カ月分です。

(2)定時決定 
毎年1回、7月1日から7月10日の間に提出する
算定基礎届を「定時決定」と言います。
社会保険は、賃金の変更があった場合でも原則、
保険料の変更はないため、すでに決められた標準報酬月額と
かけ離れないようにするための手続きです。
4、5、6月に支払われた報酬額を平均して
その年の標準報酬月額を決定します。

 《定時決定の対象者》
・その年の5月31日までに資格を取得した者で
 7月1日現在在職中の人
・休職(育児、介護や労災で休業中も含む)中、欠勤の人

その後、決定通知書をもとに、
定時決定の標準報酬月額を「9月分」の社会保険料より
変更します。前述(1)の通り、
具体的には、「9月分の保険料から変更」とは、
実際は「10月支給給与」から変更することになります。
給与の締め日は関係ありません(影響しない)ので、
間違いがないようにしてください。

(3)随時改定 
通常は毎年1回の定時決定により決定された
標準報酬月額を1年間適用しますが、
昇給や降給などにより、報酬の額に大きな変動があったときは、
実際に受ける報酬と標準報酬月額との間に隔たりがないよう
次回の定時決定を待たずに報酬月額の変更を行います。
これを「随時改定」といい「月額変更届」を提出します。

 《随時改定の対象者》
・固定的賃金の変動や賃金体系の変更があった
・変動月後、3か月とも支払い基礎日数が17日以上ある
 ※短時間労働者は11日以上
・変動月から3か月間の報酬の平均額と
 現在の標準報酬月額に2等級以上の差がある

なお、「基礎日数が17日以上ある」は、
正社員だけでなくパートの方でもこの要件が必要となります。

また固定的賃金が増加しても非固定的賃金が減少したため
3か月の平均額が2等級以上下がった場合や
反対に固定的賃金が減少しても平均額が上がった場合には
随時改定には該当しません。
あくまで固定的賃金の増減と平均額の増減が同じ方向の場合のみ
手続きが必要となります。
該当になったときには、すみやかに「月額変更届」を
提出しましょう。

随時改定による社会保険料の変更時期は
「固定的賃金が変動した月から起算して4か月目」分からとなります。
よって、実際に改定後の保険料に変更するのは
標準報酬月額改定月の翌月(報酬の変動月から5ヶ月目)に
支払われた給与からとなります。

<例>・10月支給給与より基本給増
  ・10月、11月、12月支給給与の総支給額の平均額も
   2等級以上あがった
  → 1月での随時改定
「2月支給給与」より社会保険料の変更を行う

なお虚偽の随時改定を行った場合、
6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が
課される恐れがあるので注意しましょう。

(4)産前産後休業・育児休業等終了時改定 
社会保険料の変更が行われるのは
上記に記載した、
「資格取得時決定」「定時決定」「随時改定」の
3回が主な改定時期です。

ただし産前産後休業および育児休業等期間を終了し
職場に復帰した際に
時短勤務等で報酬額が休業前と比べて変動する場合
3歳未満の子を養育している被保険者が
標準報酬月額の改定を申し出ることができる制度です。

休業終了時の改定における社会保険料の変更時期は
その「休業等の終了日の翌日」から起算して
「2か月が経過した日」の「属する月」の「翌月」
(休業等終了日の翌日が属する月から4か月目)から
適用となります。

<例>8月3日育児休業終了 →  終了の翌日 8/4
               2か月が経過した日 10/3
               の属する月の翌月  11月 から適用
  11月分保険料で改定となり
 「12月支給給与」より社会保険料の変更を行う

社会保険料の変更は
原則、年1回の定時決定で変更になりますが
それ以外にも該当する場合があるため、
毎月確認が必要となります。

■ 社会保険料の納付期限

社会保険料は、当月の翌月末日までに、
被保険者負担分と企業負担分をまとめて日本年金機構に納付します。
翌月末日が土曜日、日曜日、祝日の場合は翌営業日が期限です。
一般的には、口座振替を利用します。

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   ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
社会保険料を決める際の「報酬の額」は
通勤手当を含めるのでしょうか。

【A.1】
通勤手当も含めて、社会保険料の額を決めます。
社会保険料の報酬の額は「総支給額」が原則のため
通勤手当も含めることとなります。
3か月、6か月単位で購入した定期代は通勤手当として報酬に含め
その額をそれぞれの月で割って1か月あたりの額を算出し
報酬に含めることとします。

☆     ☆     ☆

【Q.2】
随時改定で「固定的賃金が変更になった場合」とありますが
固定的賃金とは具体的にどのような手当をいうのでしょうか。

【A.2】
一般的には、基本給や役職手当、家族手当、住宅手当などが
該当となります。
また上記Q.1にある通勤手当も基本的には毎月同額であることから
これも固定的賃金と言えるでしょう。

時給者などは、時給単価や日給額、1日の通勤手当の額、
請負の方は、請負給や歩合給も固定的賃金です。

反対に、
その業務を行った場合に支給される手当=変動的であるもの
は非固定賃金に分類されます。
代表的なものは
時間外労働、深夜労働、休日労働の手当です。
また日直手当や精勤手当なども非固定賃金です。

随時改定に該当するかを確認する際、
各手当が固定賃金、非固定賃金のどちらに該当するのかを
確認することが大事です。

☆     ☆     ☆

【Q.3】
社会保険の取得や変更を届け出た後、決定された
標準報酬月額はどのように確認したらよいのでしょうか。

【A.3】
資格取得時は「資格取得届」
定時決定時は「算定基礎届」
随時改定時は「月額変更届」
産前産後育児休業終了時改定時には
「(産前産後)育児休業等終了時報酬月額変更届」を
日本年金機構に提出します。

提出した各届が受理されると、
日本年金機構から「決定通知書」が届きますので
提出した内容と相違がないか、
決定通知書に記載がある標準報酬月額と改定月を
確認してください。
改定月の翌月支給給与より、
新保険料を控除することとなります。

決定通知書が届かない場合には、
まだ審査中です。