vol.203 車の事故の労災保険
労働者災害保険(以後、労災保険)が給付を行う対象には、
業務上の事故・災害ならびに通勤途中での事故・災害を
事由にするものがあります。
なかでも、自動車での事故は
業務上・通勤上のどちらであっても大きな事故が起きやすく、
また相手側がいる場合もあり
その保険申請は複雑な手続きとなります。
今回は自動車の事故の労災について
確認していきます。
■ 業務災害と通勤災害
労働災害は、「業務災害」と「通勤災害」の2つがあります。
①業務災害
労働者の業務上の負傷、疾病、障害
または死亡のことをいいます。
業務上とは、以下のような場合を指します。
・業務時間内
・業務時間内の休憩中
・出張中
いずれも、
業務遂行性
(事業主の支配・管理下に置かれている状態であること)と
業務起因性
(怪我と仕事の間に関連性があること)が
認められる必要があります。
業務時間中に、仕事が原因で交通事故に遭ったということが、
業務災害として認められる条件となります。
自動車事故で業務災害に当たるケースは
・営業先へ出向く場合
・配達等で車を使う仕事
などが考えられます。
②通勤災害
労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害
または死亡のことをいいます。
通勤とは、以下のような場合を指します。
・住居と就業場所との往復
・就業場所から他の就業場所への移動
・単身赴任先から帰省先への移動
自動車事故で通勤災害に当たるケースは
出退勤時の会社と自宅の往復での
事故が考えられます。
③業務災害と通勤災害の補償内容の違い
通勤災害については、一部自己負担額が発生しますが
その他については、原則、業務災害、通勤災害の給付に
差はありません。
■ 交通事故による労災保険
仕事中・通勤中に交通事故に遭った場合には、
労災保険と
加害者が加入する自賠責保険(+任意保険、以下自賠責保険等)
を使うことができます。
ただし、労災保険と自賠責保険等の給付の内容が
重複する場合には、その重複部分については
どちらか一方を選択することになります。
どちらを受けるかについては、被災者自身が自由に選べます。
ただし、一部の補償については重複しないため
両方支給される項目もあります。
そのため、両方の保険の手続きをするのが一般的です。
重複する補償の部分については
どちらがよいのか確認し、
重複しない補償についてはどちらも請求手続きをしましょう。
<重複する補償(一方を選択)>
・治療費
・休業補償
・後遺障害逸失利益
・遺族年金(死亡逸失利益)
・介護費用
・葬祭料
<重複しない補償>
○労災保険のみに認められる補償(特別給付金)
・休業特別給付金
・障害特別支給金
・障害特別年金、一時金
・遺族特別支給金
・遺族特別年金
・傷病特別年金、一時金
○任意保険のみに認められる補償
・慰謝料
・労災保険の給付額を超える休業損害や葬祭料などの各種賠償金
■ 労災保険と自賠責保険等の違いと特徴
1. 労災保険における休業にかかる給付は
事故前の給与の8割(=6割(休業(補償)給付)+2割(特別支給金))であり、
休んだ分の満額が出るわけではない。
自賠責保険は満額が支給される。(要件あり、次項を参照)
2. 自賠責保険からの支給額は、
被災労働者自身の過失が7割以上あると
減額されてしまう(重過失減額)が、
労災保険には制限がなく、被災労働者自身の過失があっても
減額されない。
3. 労災保険の支給は上限がなく無制限に支給されるが、
自賠責保険には傷害部分で120万円という限度額がある。
4. 死亡の場合、労災保険であれば一定の要件を満たせば
遺族への年金が支給される。
自賠責保険からは3000万円を限度額とする一時金のみが支払われる。
等があげられます。
特に2.の被災者自身の過失が大きい場合には
自賠責保険の場合、減額されてしまいますので
まずは過失割合がどの程度か確認してください。
■ 労災保険を優先したほうがよい場合
労災保険と自賠責保険等の重複する補償の場合、
労災保険か自賠責保険等のどちらを優先的に利用するか
選ぶことになります。
基本的には支給額を多い方が選ぶとよいでしょう。
例えば、休業する場合の労災保険は
平均収入の8割が支給されるのに対し、
自賠責保険は給料の満額と同額の支給が受けられるので
自賠責保険が良いかと思います。
ただし、すべてのケースで自賠責保険がおすすめというわけではなく、
労災保険を優先的に利用した方がいいケースもあります。
1. 過失割合が被災労働者のほうが大きい場合
先に述べたように、被災者労働者の過失が
7割以上の場合には、自賠責保険では減額されてしまいますが
労災保険ではそのような制度がないため
労災保険のほうが支給額が高くなる場合があります。
2. 加害者が無保険の場合
加害者が自賠責保険に加入していないケースでは、
自賠責保険は使えないので労災保険を利用するしかありません。
■ 自動車事故の労災書類
自動車事故の労災保険給付申請に必要な書類は
他の労災事故と同じものと、
追加で「第三者行為災害届」の提出が必要です。
これは乗っていた車の車種、天候、信号の有無、
自賠責保険の連絡先、示談や損害賠償金の受領等を記入するものです。
また添付書類として
・念書
・「交通事故証明書」または「交通事故発生届」
が必要です。
また場合によっては以下の書類も必要になります。
・示談書の謄本(示談が行われた場合 写しでも可)
・自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書または保険金支払通知書
(仮渡金または賠償金を受けている場合 写しでも可)
・死体検案書または死亡診断書(被災者死亡の場合 写しでも可)
・戸籍謄本(被災者死亡の場合 写しでも可)
~厚生労働省 第三者行為災害のしおり~
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-10.pdf
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
自動車で営業先から直帰で自宅へ帰るときに
交通事故にあい、病院へ行きました。
この場合は労災事故になるのでしょうか。
【A.1】
通勤途中の事故になり、労災事故になります。
営業先から直帰する場合には、その間の事故について
通勤災害にあたり、労災が適用となります。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
業務中に車に追突されました。
相手方が「警察には言わないでもらいたい」と伝えられましたが
こういった場合、どうすればよいのでしょうか。
【A.2】
交通事故後に警察を呼ばないのは「道路交通法違反」になります。
そのため、必ず警察に連絡をしてください。
そのうえで、会社にも事故にあった旨を報告してもらい
労災等の手続きを取るようにしてください。
☆ ☆ ☆
【Q.3】
1週間に2日、1日3時間勤務のアルバイトが
通勤途中で交通事故にあいました。
この場合でも労災保険は適用となるのでしょうか。
【A.3】
アルバイトであっても、労災保険の申請はできます。
労災保険は、正社員以外のアルバイトやパート社員であっても
適用対象となり、事故にあった場合には支給申請が可能です。
アルバイトの方であっても、事故にあった場合には
会社にきちんと申告してもらうようにしてください。
また休業(補償)給付の申請には、
出勤簿や賃金台帳の添付も必要ですので
正社員以外の方についても帳簿は保管しておいてください。