vol.216 改正 雇用保険法 その1

今年から数年にかけて
雇用保険法の一部が改正となります。
被保険者の要件、給付に関する事項など
会社の手続きにも、また労働者である被保険者にも
影響のある部分が改正対象です。

今回の主な法律改正の内容と
どのような影響が出てくるのか確認していきます。
なお改正内容が多いため、
メルマガは2回に分けてお送りいたします。

 雇用保険法とは

○目的
雇用保険法の目的は、
労働者が失業した場合や
雇用継続が困難となった場合に、
給付を行って生活を支えることです。
また、職業訓練や育児休業に対する給付を提供し、
労働者が職業能力を高めたり、
子育てをしながら働き続けられるよう支援します。
これにより、失業予防や雇用機会の増大、
労働者の福祉向上を目指し、
全体として雇用の安定を図ることを目的としています。
(雇用保険法第1条)

退職し、失業した場合に受給できる
失業等給付の基本手当や、
育児や介護等で休んでいる期間に受給できる
育児休業給付金や介護休業給付金が主な給付項目です。
また雇用継続のため等の目的で会社側が受給できる助成金なども
この雇用保険より支給されます。

○労働者の加入要件
現在、雇用保険に加入する労働者は
・1週間の所定労働時間が20時間であること
・31日以上の雇用見込みがあること
となっています。

厚生労働省 ~雇用保険に加入していますか~
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/roudousha01_1.pdf

○保険料
雇用保険料の料率は、
労働者および会社の保険料率が
毎年定められています。
令和6年度は一般の事業で、
労働者 6/1000
会社  9.5/1000

なお労働者の保険料は、毎月の賃金額より計算し
控除されることとなります。

■ 雇用保険法の改正

2024年通常国会において雇用保険法の改正が成立し
令和7年4月1日より施行予定となっています。
(ただし一部の内容については 令和6年10月、令和7年10月、令和10年10月より)

主な改正点は以下の通りです。

【被保険者の適用拡大 令和10年10月1日施行】

雇用保険加入の要件が変更となり、緩和され
加入する労働者が増えます。

  現行:1週間の所定労働時間が『20時間以上』
→改正後:1週間の所定労働時間が『10時間以上

この改正により短い労働時間数で
勤務している労働者も雇用保険に加入することになります。
結果、
ほとんどの労働者が雇用保険に加入することになり
取得手続きの手間や
保険料の会社負担額および労働者の負担額が
増えることになります。

【被保険者期間の算定 令和10年10月1日施行】

雇用保険の給付は、
一定の被保険者期間があるかどうかを支給要件としており
例えば失業給付等の基本手当は
「離職の日以前2年間に被保険者期間が
通算して12か月以上あること」
を受給資格としています。
この被保険者期間の「1か月」を数え方が変更となります。

 現行:離職日から1か月ごとに区切っていった期間に
    賃金の支払いの基礎となった日数が『11日以上』
    または賃金支払い基礎となった
    労働時間数が『80時間以上』ある場合
→ 改正後:
    離職日から1か月ごとに区切っていった期間に
    賃金の支払いの基礎となった日数が『6日以上
    または賃金支払い基礎となった
    労働時間数が『40時間以上』ある場合

今後は離職票等の被保険者期間の書き方に注意が必要です。

【自己の労働により収入がある場合
  (失業認定基準の変更) 令和10年10月1日施行】

退職し失業中の労働者が
一部就労していた場合の取り扱いについての変更です。
これは会社の手続きではなく、
退職後の労働者の手続きになります。

現在、基本手当の支給の際、
過去28日間(4週間)のうち
労働した時間数が4時間以上の日については
失業の認定が行われないこととなり
基本手当の受給ができません。
その時間数が変更となります。

  現行:1日『4時間以上』の日は失業認定が行われない
→改正後:1日『2時間以上』の日は失業認定が行われない

なお、就労しているにもかかわらず
ハローワークでその旨を申告しない行為は
不正受給となるため、必ず申告するようにしましょう。

【自己都合退職者の給付制限期間の短縮等 令和7年4月1日施行】

 退職しハローワークへ出向いたあと
7日間の待期期間の翌日から、
原則2カ月間の給付制限期間がありますが、
この期間を短縮されます。
 また離職期間中や離職日前1年以内に、
自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合には、
給付制限を解除できることになります。
なおこちらについては、法改正ではなく通達での変更です。

  現行:給付制限期間『2か月』
→改正後:給付制限期間『1か月
     +教育訓練等を行った場合は、給付制限なし

【教育訓練給付の改正 令和6年10月1日施行】

教育訓練給付金は、厚生労働省が指定する
教育訓練を修了した際に受講費用の一部が支給されるもので
そのうち、専門実践教育訓練の上限が変更となります。

  現行:支給上限100分の『70』
→改正後:支給上限100分の『80

なお、専門実践教育訓練は
看護師、介護福祉士、保育士、栄養士、助産師などの資格過程や、
専門職大学院や職業実践力育成力プログラムなどの過程を
修了した場合が該当となります。

【教育訓練休暇給付金の創設 令和7年10月1日施行】

教育訓練給付金とは別に、被保険者が在籍中に
教育訓練のための休暇を取得した場合に、支給される給付金が
創設されることになりました。

  現行: なし
→改正後: 90日、120日、150日のいずれか

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   トピックⅡ ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
1週間の所定労働時間が10時間以上の労働者が
雇用保険に加入できるようになりますが
所定労働時間はどのように計算するのでしょうか。

A.1】
1週間の所定労働時間とは、「通常の週」に勤務すべき時間をいい、
1週間の所定労働時間が変動し、通常の週の所定労働時間が
シフト等により変動する場合には
平均により算定された時間とします。
また所定労働時間が1カ月の単位で定められている場合には、
当該時間を12分の52で除した時間を1週間の所定労働時間とします。

☆     ☆     ☆

【Q.2】
今まで週15時間勤務だったため雇用保険に加入していない労働者が
今後、雇用保険に加入する場合、
どのような点に気を付ける必要があるのでしょうか。

【A.2】
雇用保険の適用拡大の施行日からは
週10時間以上の所定労働時間の労働者も
雇用保険に加入する必要があります。

そのため
・雇用保険に加入することを伝える
・今後の給与から雇用保険料を控除する
・失業したとき、育児や介護休業を取得したとき、
 教育訓練を受講したときなどに雇用保険から給付が受けられる

等の説明は必要でしょう。
また会社の費用負担も発生することから
事前にその分の資金繰りを考えておく必要があります。

令和10年からですので、少し先になりますが
現在の労働者で誰が新規の雇用保険加入対象者になるのか、
雇用保険料の額はどれくらいになるのか
早めに試算しておくことをお勧めいたします。