vol.215 定年再雇用に関する手続き

現在、定年は60歳以上と法律で定められていますが
その後もそのまま同じ会社で働く方も多いと思います。
これは、60歳以上でも
まだまだ働ける健康な労働者が多いこと、
年金の支給年齢が原則65歳であること、
などが理由としてあげられます。

では定年前と定年後では何が違うのか、
どのような手続きが必要なのか、
定年者がいる場合、
会社側がやらなければならないことを
確認します。

 定年とは

定年とは、労働者が一定の年齢に達したことを
退職の理由とする制度をいいます。
この定年で一度、労働契約が終了する、
という意味であり
退職理由の種類の1つとなります。

現在、60歳を下回る定年を定めることはできません。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第8条において
「事業主がその雇用する労働者の定年(以下「定年」という。)
の定めをする場合には、
当該定年は、六十歳を下回ることができない。
ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、
高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として
厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、
この限りでない。」と定められています。

■ 60歳以降の就業確保

前項に則り定年の年齢を60歳と定めていても
現在の法律では、65歳および70歳までの就業確保の措置を
求められています。

(1) 65歳までの雇用機会の確保(高年齢者雇用確保措置)
定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、
その雇用する高年齢者の
65歳までの安定した雇用を確保するため、
次のいずれかの措置を実施する必要があります。
(高年齢者雇用安定法第9条)

1.65歳までの定年の引上げ
2.65歳までの継続雇用制度の導入
3.定年の廃止

2の「継続雇用制度」とは、
雇用している高年齢者を、本人が希望すれば定年後も
引き続いて雇用する、「再雇用制度」などの制度をいいます。
現在この制度の対象者は、
希望者全員を対象とすることが必要となっています。

一般的には、「定年の引き上げ」もしくは
「継続雇用制度の導入」を行っている会社が多く
特に継続雇用制度を行っている会社は
定年の時点で給与や労働時間等の労働条件を見直しています。

(2) 70歳までの就業機会の確保(高年齢者就業確保措置)
定年年齢を65歳以上70歳未満に定めている事業主
又は 
継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を
導入している事業主は
以下のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります。
(高年齢者雇用安定法第10条の2)

1.70歳まで定年年齢を引き上げ
2.70歳までの継続雇用制度
 (再雇用制度・勤務延長制度等)を導入
          (他の事業主によるものを含む)
3.定年制を廃止
4.70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5.70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う
    社会貢献事業
※ただし、創業支援等措置(4.5)については
過半数組合・過半数代表者の同意を得て導入。

70歳までの就業機会の確保について、
多様な選択肢を法制度上整え、
事業主としていずれかの措置を制度化する
努力義務を設けるものであり、
70歳までの定年年齢の引上げを
義務付けるものではありません。

 定年の際の手続き

定年の際に会社が行う手続きを確認していきます。
一般的には、定年再雇用されると給与額が減る場合が多く
その経済的な補填としての手続きをします。

【社会保険 保険料の標準報酬変更】
60歳以上の社会保険加入者で
定年再雇用者が対象となる手続きです。
再雇用に際し給与額が下がった場合、
月額変更を待たずに、「変更があった月から」
社会保険料を下げることが可能です。

添付書類
・就業規則 定年の欄のコピー
・労働条件通知書のコピー

なお、給与額には毎月支払っている
通勤手当の額も含ま れますので、
労働条件通知書等にその額も記入しておきましょう。

~日本年金機構 60歳以上の手続き~
60歳以上の厚生年金の被保険者が退職し、
継続して再雇用される場合、どのような手続きが必要ですか。
https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/kounenseido/shokutakusaikoyo/20140911.html

【雇用保険 高年齢雇用継続給付】
60歳以上の雇用保険加入者が対象となる手続きです。
60歳~65歳の間、60歳時点の給与額より
75%未満に下がった場合、雇用保険より
「高年齢雇用継続給付金」が支給されます。

添付書類
・被保険者の運転免許証や住民票等のコピー
(被保険者の年齢が確認できる書類)
・通帳のコピー

ただし、2025年4月より
縮小・将来的に廃止されることが決まっています。
詳細がわかりましたら、メルマガ等でご案内いたします。

 定年再雇用の際に注意すべき点

定年に達する労働者がいる場合、
前述のとおり、
会社は希望するもの全員に
次の労働契約の明示をする必要があります。
その際の注意点としては

・定年前と継続して同じ業務をやってもらうのか
・賃金額は同じでよいか
・労働時間、労働日数は同じでよいか

等を事前に決めておきます。
その上で、定年後の労働条件を書面にして
労働者と面談をし、
「定年後の労働条件はこのような内容になるが合意できるか」
と伝えます。
合意できれば、定年後の労働条件で働いてもらい、
合意ができなければ、そのまま「定年で退職」となります。

その後、1年の有期契約で定年再雇用を更新している会社が
多いと思いますので、その場合には1年ごとに
労働条件を再度明示して更新していく必要があります。

また、定年再雇用後の年次有給休暇については
定年前の残日数や勤続年数が引き継がれます。
実質的に労働契約が存続しているとみなすためです。
こちらはリセットにはなりませんので、
年次有給休暇表作成の際には注意してください。
(労働契約法39条)

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  トピックⅡ ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
定年を迎える労働者がいますが、
本人が「再雇用してもらいたい」という場合には
必ず再雇用しなければならないのでしょうか。

【A.1】
労働者が再雇用を希望する場合、
必ず会社は労働条件を明示しなければなりませんが、
「必ず再雇用しなければならない」とは言っていません。
定年後の新しい労働契約を明示し
その賃金や労働時間等の合意が得られず
結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、
高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。
あくまで制度を導入し、
労働条件を「明示する」ことが義務となっています。

なお、65歳以上の労働者については
年金受給の年齢に達していることから、
雇用の義務はなく「努力義務」となっており、
労働者として雇い入れる場合のほか、
業務委託契約でも努力義務を果たしていることになります。

☆     ☆     ☆

【Q.2】
「定年再雇用」と「定年の年齢を延長する」場合とは
どのようなことが違うのでしょうか。

【A.2】
定年再雇用と、定年の年齢を延長することは
同じような内容だと思われがちですが、
少し内容が違います。
その内容とメリット、デメリットをあげておきます。

(1)定年再雇用
定年で一度退職となり、今までの労働契約は終了します。
そのあとの雇用形態や勤務日数、勤務時間、給与形態などを変更し、
双方にとって負担の少ない労働条件を設定し直すのが一般的です。

たとえば、正社員は契約社員や嘱託社員に、
週5日フルタイム勤務から週3日・1日6時間勤務に、
などといった変更も可能です。
また、身分や時間だけでなく、
退職前の役職から外れ、
新たな部署で新たな業務に従事してもらうなどの
契約になる場合もあります。

【メリット】
・定年を機に労働条件を変更できる
・人件費を抑制しやすい
・65歳以降については成績等の基準で
 継続雇用者を選別することが可能

【デメリット】
・雇用管理に手間がかかる
・正社員とは異なる雇用形態となり、
 労働者のモチベーションが下がってしまう可能性がある

(2)定年延長
定年延長は、定年前の役職や業務内容が
そのままで変更されないのが一般的です。
また退職金の支給は
「定年時」と定められている場合が多いため
定年延長されると、退職金の支給も遅れますが
その分支給額が増えることがよくみられます。

【メリット】
・退職を挟まないので業務への影響が少ない
・雇用管理に手間がかからない
・労働者のモチベーションを維持しやすい

【デメリット】
・人件費が増加する可能性がある
・労働条件の大幅な変更が難しい
・能力や勤務態度に問題を抱えた労働者についても
 延長後の定年まで雇用を終了させることが難しくなる

定年再雇用と定年の引き上げの
どちらが会社にとって適切かは、事業内容や
労働者の年齢や体調、業務内容等
などを総合的に考慮して決定する必要があります。
就業規則の記載が必要な事項ですので、
慎重に検討しましょう。

一般的には、定年は60歳、その後再雇用を採用されている
会社が多いようです。