vol.208 フリーランス保護新法
以前 Vol.199のメルマガでも取り上げましたが
昨今 副業を許可する会社が増えてきており、
国も副業や兼業を後押ししています。
副業等を行う方は
個人事業主として副業に携わる場合が多く見られ、
労働基準法の適用を受けないことから
労働者と比べて弱い立場になる場合があり
問題も多く発生しています。
そのため、フリーランスを守る法律が成立し
2024年のうちに施行される予定です。
今回はフリーランス保護法について確認します。
■ フリーランス保護新法とは
正式名称を
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案
(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」といいます。
令和5年5月12日に公布され、
令和6年秋ごろまでには施行される予定です。
この法律は、個人や一人会社で業務委託を受ける事業者である
フリーランスを「特定受託事業者」と位置付けたうえ、
フリーランスに業務委託する委託者に対し
下請法と同様の規制を課すほか、
限定的に労働者類似の保護を与え、
これらの違反に広く行政の指導を可能とするものです。
今後は、会社側がフリーランスに業務を委託する場合も
この法律を遵守する必要があります。
■ 背景
フリーランス保護新法ができた背景には、
「フリーランス人口の増加」と
「フリーランスの立場の弱さ」
が挙げられます。
1.フリーランス人口の増加
日本のフリーランス人口は
年々増加傾向にあるといわれています。
フリーランスが増加している理由としては
以下が考えられます。
・労働環境の変化
・副業や兼業許可の拡大
・フリーランス向けのクラウドソーシング・エージェントの普及
・フリーランス向け作業スペースの充実
2.フリーランスの立場の弱さ
業者から業務委託を受けて仕事を行っている
フリーランスの3人に1人以上の方が、
取引先とのトラブルを経験していると
内閣官房の「フリーランス実態調査結果」で発表されています。
具体的なトラブル内容は主に
・発注の時点で、報酬や業務の内容などが明示されなかった
・報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった
等です。
このようにフリーランスの人口の増加や
トラブルが多いことから、
フリーランス保護新法が制定されることとなりました。
■ フリーランス保護新法の内容
① 業務委託時の内容明示
フリーランスに対し業務委託をした場合、
委託内容(仕事内容)や報酬、支払期日等を記載した
書面もしくは電磁的な方法(メールなど)により
明示しなければなりません。
今までは口頭で報酬額等を伝えることがあり、
それが問題となるケースが多発していました。
② 報酬支払
フリーランスから納品物やサービスの提供を受けた日から
60日以内に報酬を支払わなければなりません。
(再委託の場合には、
発注元から支払いを受ける期日から30日以内)
③ 継続取引を行う際の禁止事項
フリーランスと一定期間以上継続して取引を行う場合、
発注事業者は以下1~5の行為が禁止されます。
また、6~7の行為によってフリーランスに不利益を
与えることも合わせて禁止されています。
1.フリーランスの責任ではない理由で受領を拒否すること
2.フリーランスの責任ではない理由で報酬を減額すること
3.フリーランスの責任ではない理由で返品を行うこと
4.相場と比べて著しく低い報酬額を不当に定めること
5.正当な理由なく
事業者側の指定するモノの購入やサービス利用を強制すること
6.事業者側の一方的な都合で
金銭、サービス、その他 経済上の利益を提供させること
7.フリーランスの責任ではない理由で
内容を変更させる、やり直させること
④ 業務委託募集を行う際の的確表示
広告等によって不特定多数のフリーランスを相手に
業務委託募集を行う際には、
正確かつ最新情報を伝える必要があります。
広告等と実際の条件が異なっていたり、
誤解を与える表現であったことによるトラブルが
多発していたために規定されました。
⑤ 出産・育児・介護との両立への配慮
フリーランスと一定期間以上継続して取引を行う場合、
出産・育児・介護と業務を両立できるよう
発注事業者側が配慮することが求められます。
また、フリーランスから申し出があれば
就業条件の変更・交渉に応じることも必要です。
⑥ ハラスメント対策
フリーランスに対するハラスメント行為への
適切な対応を行うために、
体制整備やその他の必要措置を講じることが求められます。
⑦ 契約更新なし・中途解約時の事前予告
継続的な業務委託を更新しない場合や中途解除する場合、
原則として契約期間満了日や中途解除日の30日前までに
その旨をフリーランスに予告しなければなりません。
フリーランスから契約終了理由を求められた場合は
その内容を回答する必要があります。
なお、これらに違反した場合には
国が発注事業者に対し
立ち入り検査や勧告、公表、命令などを行うことができ、
命令違反や検査拒否には50万円以下の罰金を科せられます。
会社としては、副業を持つ従業員が
副業先でのフリーランス保護新法の適用になるだけでなく、
会社が外注先として個人事業主に業務を依頼する際、
上記の内容に注意して発注しなければならなくなります。
■ フリーランス保護新法の適用者
今回の新法成立により、適用となる方は下記の通りです。
〇保護される方:「特定受託業務従事者」
業務委託の相手方である事業者であって、
次のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用しないもの
②法人であって、一の代表者以外に他の役員
(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、
監事若しくは監査役またはこれらに準ずる者をいう)がなく、
かつ、従業員を使用しないもの
●規制される方:「特定業務委託事業者」
業務委託をする事業者であって、
①個人であって、従業員を使用するもの
②法人であって、2以上の役員があり、
又は従業員を使用するもの
フリーランスが「一般消費者」から注文を受けたときや、
ひとり社長などを含む「フリーランス」から発注された際には
この法律は適用されません。
あくまで「従業員を雇っている事業者」から
「業務委託」された場合だけですので注意が必要です。
(注)前述の新法の内容の①(書面による内容明示義務)に限っては、
委託者がフリーランスであっても課されるので留意が必要です。
■ フリーランス保護新法により会社がやるべき事項
発注事業者に課される義務や禁止事項が多くあるため、
チェックリストなどを作り、
現状の対応状況を把握しましょう。
・契約書や募集内容を、同法を遵守したフォーマットに改める
・同法について、マニュアル作成や説明会実施により社内に周知する
・フリーランスの就業環境を意識し、社内体制整備を進める
等があげられます。
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
フリーランスに委託するうえで
特に気を付けなければならないことは何でしょうか。
【A.1】
上記にあるとおり
・業務委託時の内容明示
・報酬支払期日
の2点が重要といえるでしょう。
これまで口頭で受注していた業務を
今後は書面で明示し、
支払いについては発注した物品等を受領した日から60日以内に
支払わなければならないこととしました。
今のうちに、契約書のひな形を作成しておくことと
おすすめします。
また「フリーランス」というと、何となく
一人でパソコンを使って業務をしているイメージですが、
フリーランスの定義に当てはまる人であれば
業種を問わず今回の新法の該当となります。
建設業の一人親方なども該当になりますので、関係業種は注意が必要です。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
下請けを保護する法律で「下請法」がありますが
それと今回のフリーランス保護新法との違いは何でしょうか。
【A.2】
フリーランス保護新法と類似した法律に、
下請法(下請代金支払遅延等防止法)があります。
下請事業者が親事業者から
不当な扱いを受けないようにするための法律です。
フリーランス保護新法と下請法は重複する内容も多いため、
下請法を用いればフリーランスの取引も適正化できるのではと
思われがちですが、
下請法は以下を満たす業務委託契約のみを対象にしており、
それに該当しない取引に対する
法的な保護を保証するものではありません。
<下請法適用範囲>
・親事業者の資本金が1,000万円超
・下請事業者の資本金が1,000万円以下
下請事業者がフリーランスの場合、
下請業者の条件は満たせる可能性が高いですが、
親事業者の資本金が1,000万円超という条件が
クリアできないことが往々にしてあります。
そのため、下請法だけではフリーランスを守っていくことができず
今回の新法施行となりました。