vol.207 労働条件通知書の明示変更
2024年4月より労働条件明示事項の追加が必要となります。
これは2023年3月30日に
無期転換ルールおよび労働契約の明確化に関する
改正労働基準法施行規則が告示されたためです。
今回は労働条件通知書を交付する際に
どの部分に追加が必要か、その労働条件通知書の追加モデルも
確認します。
■ 労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、労働基準法第15条により、
会社(使用者、事業主)が労働者と雇用契約をする際、
交付が義務付けられる書類です。
その記載内容は絶対に記載が必要な事項と
そうではない事項に分かれます。
【労働条件通知書の絶対的記載事項】
1.労働契約の期間
2.有期労働契約の更新の基準
(有期契約で更新の可能性があるものの場合)
3.就業場所と従事すべき業務の内容
4.始業及び終業の時刻
5.所定労働時間を超える労働の有無
6.休憩時間、休日、休暇
7.就業時転換に関する事項
(労働者を二組以上に分けて就業させる場合)
8.賃金の決定、計算及び支払いの方法、昇給に関する事項
9.賃金の締め切り及び支払いの時期
10.退職に関する事項(解雇事由を含む)
なお短時間労働者と有期労働契約の場合には下記の内容も必要です。
11.昇給の有無
12.賞与の有無
13.退職金の有無
14.相談窓口の記載
(パートタイム・有期契約労働法)
【労働条件通知書の相対的記載事項】
1.退職手当が該当する労働者の範囲
2.退職手当の決定・計算・支払い方法、支払時期
3.臨時に支払われる賃金(賞与など)
4.最低賃金
5.労働者に負担させる食費や作業用品など
6.安全・衛生に関する内容
7.職業訓練に関する内容
8.災害補償、業務外の傷病扶助について
9.表彰、制裁について
10.休職について
相対的記載事項で重要な部分については、
労働条件通知書に記載しておいた方がよいでしょう。
それ以外の項目については
就業規則に記載しておいてください。
【交付時期】
1.入社時
無期契約であっても有期契約であっても
入社の際には労働条件通知書の交付が必要です。
2.更新時
有期契約の場合、その更新ごとに
労働条件通知書の交付が必要です。
■ 法改正による変更事項
労働条件通知書での明示事項の変更事項は
以下の3点となります。
(1)についてはすべての労働者、
(2)(3)については有期労働契約者が対象となります。
【すべての労働者に対して追加される明示事項】
(1)就業場所・業務の変更の範囲
すべての労働契約締結時および有期労働契約の更新時の明示事項に、
「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されました。
従来も、「就業の場所」「従事すべき業務の内容」に関しては
明示事項に盛り込まれていましたが、
雇入れ時の就業場所と業務内容についての記載があればよしとされていました。
2024年度からは、
配置転換等によって想定される
就業場所や従事する業務内容の変更の範囲を記載・明示することになります。
明示のしかたとしては、ケースにより次の2パターンの書き方があると思われます。
①就業場所・業務の変更を限定しない場合
いろいろな業務を行う、転勤や配置転換もあるような
新入社員や、中途採用であっても内容が決まっていない場合
・就業の場所 例:
(雇入れ時)㈱〇〇 東京支店 →(変更の範囲)会社の定める場所
・従事すべき業務の内容 例:
(雇入れ時)事務一般 →(変更の範囲)会社でのすべての業務
②就業場所・業務の変更を限定する場合
「限定された場所である決まった仕事をやってもらう」、といった
中途採用やパート労働者などの場合
・就業の場所 例:
(雇入れ時)㈱〇〇 東京支店 →(変更の範囲)㈱○○ 埼玉支店に限定
・従事すべき業務の内容 例:
(雇入れ時)接客等 →(変更の範囲)接客等に限定
厚生労働省が公表している
「多様化する労働契約のルールに関する検討会 報告書」
P31に、
『例えば、東京 23 区内に限定されている場合は
「勤務地の変更の範囲:東京 23 区内」と示されることが想定され、
また、勤務地に限定がない場合は
「勤務地の変更の範囲:会社の定める場所」と
示されることが想定される』
とあります。
なお、同じページに
「就業の場所や従事すべき業務の変更の範囲
(将来に向けてどの範囲で異動がありうるか)
までは求められていない」
と記載があることから、上記のような書き方でよいと考えられます。
参考)厚労省 令和4年3月30日
「多様化する労働契約のルールに関する検討会 報告書」
31ページ 注62
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000928269.pdf
【有期労働契約者に対して追加される明示事項】
(2)更新上限の有無と内容
有期労働契約の締結時と更新時には、
「更新上限」に関わる内容を明記することになります。
今までは、有期労働契約締結・更新時には
・「契約期間」
・「契約更新の有無」
・「契約更新の判断基準」
を明示することとなっていましたが、これに加えて
・「更新上限の有無」
・(上限がある場合の)「更新回数または通算契約期間の上限」
を記載することとされます。
(3)無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件の明示
有期労働契約に関わる労働契約では、
無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する
契約の更新時に、
・無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)
・無期転換後の労働条件
を明示することとされます。
今回の改正で、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、
無期転換を申し込める旨の明示が必要になります。
●無期転換申込機会
無期転換は、同一の使用者(会社)との間で、
有期労働契約が5年を超えて更新された場合、
有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)
からの申込みにより、
期間の定めのない労働契約 (無期労働契約)に
転換することができます。
例えば、契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に、
契約期間が3年の場合、1回目の更新後の3年間に
無期転換の申込権が発生します。
有期契約の場合で無期契約を希望しなかった場合には、
その後も更新の都度、無期転換の申込権が発生するため、
申込権が発生した以後の有期契約の労働条件通知書には
無期転換申込機会がある旨を記載する必要があります。
●無期転換後の労働条件の明示
また、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、
「無期転換後の労働条件の明示」もしなければなりません。
無期転換は「有期契約から無期契約になること」であるので、
労働時間、賃金など
その他の条件を変更する必要はありません。
もちろんこれを機に、時給から月給制にすることや
労働時間を増やす、といったことも考えられますので、
労使双方の齟齬・誤解がないように
無期転換後の労働条件はどうなるのかをきちんと伝えましょう。
■ 労働条件通知書のひな形
厚生労働省より、今回の改正部分を追記した
労働条件通知書のひな形がでておりますので
こちらを参考にしてください。
厚生労働省
~2024年4月から労働条件明示のルールが変わります~
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
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ここが知りたい! Q&A
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【Q.1】
今まで労働条件通知書を労働者に明示していませんでした。
どうすればよいでしょうか。
【A.1】
労働条件の明示は労働基準法で定められているため
明示をしていなければ法違反となります。
そのため、この機会に明示していない労働者に
労働条件通知書を交付してください。
労働条件の明示義務違反があった場合、
当該違法行為をした者および事業主は
30万円以下の罰金が科せられます(労基法120条1号、121条)。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
書面以外の方法で労働条件通知書の明示は可能でしょうか。
【A.2】
書面以外の方法で明示は可能です。
平成31年4月1日から、一定の要件のもと
労働条件通知書を電子化して交付することが可能になりました。
具体的な方法としては、
・メール
・SNS
・FAX
等となります。
ただし、これは労働者側が電子媒体での交付を希望していることが要件です。
労働者が電子化を拒否している場合や、
電子化での明示的を希望していないならば、原則どおり書面での交付が必要です。
また、労働者から求められた場合は、
速やかに書面で交付しなければなりませんので
印刷できるようにしておきましょう。
☆ ☆ ☆
【Q.3】
本社が移転した場合や支店が閉鎖になり、他の支店に転勤する場合
全員に改めて労働条件を明示する必要があるのでしょうか。
【A.3】
就業の場所を、
「会社の定める事業所、限定せず」という内容で明示している
労働者には特に再度の明示は必要ありません。
地域限定社員等で就業の場所を限定して明示されていた者を、
その場所から他の場所へ転勤、異動させる場合には
再度、労働条件通知書を明示する必要があります。