vol.229 経歴詐称への対応~解雇できる?できない?採用時確認と発覚後対応の実務整理
採用面接の際、履歴書や職務経歴書を
提出させることが多いと思います。
その内容を踏まえて採用に足る人物と判断して雇用した後に
その履歴書の記載内容が事実と異なっていたことが
判明するケースがあります。
「あらかじめ事実が分かっていれば採用しなかったので解雇したい」
と考える事業主の方も少なくないでしょう。
実際に経歴詐称を理由として解雇できるのか、
また実務上の注意点を確認していきます。
--≪目次≫-------
□ 経歴詐称とは
□ 本当に懲戒解雇できるのか
□ 採用後に経歴詐称が判明した際の対応
□ 経歴詐称を原因とする解雇手続き
□ 経歴詐称を防ぐためにすべきこと
□ 経歴詐称の裁判例
□ Q&A
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■ 経歴詐称とは
経歴詐称とは、労働者が会社に対し、
履歴書や職務経歴書、採用面接などにおいて、
虚偽の学歴や職歴、賞罰などの犯罪歴等申告することや、
真実の経歴を隠すことをいいます。
経歴詐称の代表例として、以下が挙げられます。
・学歴
最終学歴や学校名、卒業学部を偽る、
留年や浪人を隠すため入学・卒業の年月などを偽るなど
・職歴
過去の勤務先や業務内容、在籍期間、
役職・マネジメント経験、雇用形態、転職回数、
年収などを偽る、
実際は未経験の業務について経験があると申告するなど
・免許・資格
受験して不合格だったが合格したと履歴書に記載する、
級やTOEICの点数等を実際より高く記載するなど
・年収
現在や以前の勤務時の年収額を実際より多く申告するなど
・犯罪歴
面接で犯罪歴を尋ねられたが申告しない、
履歴書の「賞罰欄」に犯罪歴を書かないなど
・病歴
現在患っている病気や病歴について虚偽の申告をする、
軽症であるように偽る、
完治していないのに健康状態は良好と答えるなど
■ 本当に懲戒解雇できるのか
そもそも、就業規則がない場合は懲戒処分をすることができません。
就業規則を作成している会社であれば
経歴詐称は懲戒解雇事由の1つとして
就業規則に定められていることが多くあります。
厚生労働省から出ているモデル就業規則でも
下記のような例があります。
(抜粋)「労働者が次のいずれかに該当するときは、
懲戒解雇とする。
ただし、平素の服務態度その他情状によっては、
第〇条に定める普通解雇、前条に定める
減給又は出勤停止とすることがある。
① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。」
(参考)厚労省モデル就業規則 P87-88
https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf
しかし、就業規則にこのような規定があるからといって、
常に懲戒解雇が認められるわけではありません。
経歴詐称により懲戒解雇できる場合とは、
「就業規則に懲戒事由の規定があること」を前提とした上で、
その経歴詐称が採用や労働条件の判断に直結する「
重大な経歴詐称」にあたるケースに
限定されると判例から解されています。そのため、
経歴詐称があったとしても
それが「重大な経歴詐称」にあたらなければ、
不当解雇とされて懲戒解雇が無効とされる可能性があります。
1.就業規則に懲戒処分の根拠となる定めがあること
2.懲戒処分について客観的に合理的な理由があること
3.懲戒処分が社会通念上相当であると認められること
4.懲戒処分が適正な手続きで行われていること
経歴詐称は上記のような条件を満たせば
懲戒解雇事由になり得るものですが
形式的には経歴詐称に該当したとしても、
上記のいずれにもあてはならない場合は、
懲戒解雇が無効とされる危険があります。
懲戒解雇が難しいと判断される場合には
出勤停止や減給、普通解雇など、
もう少し軽い懲戒処分も検討しましょう。
■ 採用後に経歴詐称が判明した際の対応
経歴詐称が判明した際、
会社はどのように対応すればよいでしょうか。
基本の流れをおさえましょう。
(1)事実を確認する
経歴詐称の疑いが生じた場合には、
まず事実を確認して
詐称の内容をあきらかにする必要があります。
採用時の資料の確認や、
本人への聴取などを行います。
(2)業務への影響を確認する
次に、経歴詐称により業務に影響があるか否かを確認します。
例えば、その業務に資格が必要であるにも関わらず
「資格を持っている」と偽って業務に従事していた場合、
速やかに資格を持っているほかの労働者に
その業務を担当させなければなりません。
(3)対応策を検討する
ひとえに経歴詐称といえども、
業務にまったく影響のないものから
重大な詐称までそれぞれです。
そのため、詐称の内容や影響の大きさによって
対応策も変わってきます。
例えば、経験者を採用するため募集をして、
その経験や能力、成績等を判断し採用を決定したにも関わらず
実際にはそのような職務経験がなかった場合には
重症な職歴の詐称となり、
懲戒解雇が有効とされる可能性があります。
一方、営業職の従業員が
本当は保有していない日商簿記検定3級を
保有と履歴書に詐称していても、
業務や賃金には関係ないため
懲戒解雇処分とすることは難しいと考えられます。
■ 経歴詐称を原因とする解雇手続き
経歴詐称により解雇をする場合には
下記の順番で手続きを進めます。
(1)事実関係の調査・証拠の確保
経歴詐称の疑いが生じたときは、その事実を確定します。
十分な根拠に基づかず単なるうわさや臆測で
懲戒処分をすることはできません。
客観的な証拠に基づいて判断しなければなりません。
詐称の内容が
学歴なら卒業証明書の提出を求める、
職歴なら前職の退職証明書や、
雇用保険被保険証など、前職がわかる公の書類の
提出を求めることで明らかにできる可能性があります。
(2)弁明の機会の付与
懲戒解雇処分にする場合、
労働者に対して弁明の機会を付与しなければなりません。
弁明の機会を与えずに懲戒処分をしてしまうと、
重大な経歴詐称があったとしても適正手続き違反として
懲戒処分が無効になってしまいます。
(3)処分の決定
経歴詐称が事実であり、労働者本人の弁明を聞いた後
会社として処分を決めます。
(4)労働者へ通知
処分が決定した場合、労働者本人にその旨を伝えます。
労働者を解雇する際には、
「原則として解雇日の30日以上前」にその旨を
予告しなければなりません。
解雇予告期間が30日に満たない場合には、
不足する日数分の解雇予告手当の支払いが必要になります。
■ 経歴詐称を防ぐためにすべきこと
経歴詐称は、将来的に
会社に重大な損害を与える可能性があるため、
事前に防ぐことが重要です。
では経歴詐称を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。
(1)履歴書の確認
履歴書に嘘を書くだけでなく、
本来書くべきことを書いていない場合も経歴詐称になります。
採用面接時に、学歴、職歴、賞罰の欄に記載もれはないか、
間違いはないのか、必ず面接の際に
口頭でも確認しましょう。
確認を怠った場合には、
採用後に経歴詐称が判明し懲戒解雇にした場合に
解雇が無効となる可能性があります。
見落としがちな点は
・職歴にある会社が実在するか、かつて存在したか
・入社・退職年月日は正しいか(正直に申告しているか)
・所属していた部署が正しく言えるか
・賞罰に偽りはないか
等です。
ただし、履歴書の「賞罰欄」の「罰」については、
確定した有罪判決に限られます。
不起訴や裁判中、刑の言渡しの効力が消滅したもの
(執行猶予期間の経過、禁錮以上の刑執行終了後10年経過など)
等については、基本的に申告義務はありません。
(2)面接での質問
履歴書や職務経歴書に正しいことを記載しているかは、
面接時に深掘りした質問をすることで見抜くことが可能です。
例えば、履歴書に記載されている経歴が正しければ
当たり前に知っている専門用語や業界用語で質問をしてみる、
疑問を感じたことに対しては表現を工夫して繰り返し質問をします。
答えが矛盾していたり、つじつまが合わなかったりします。
(3)リファレンスチェック・バックグラウンドチェック
中途採用では応募者から提出された
履歴書や職務経歴書、面接時に受け答えする情報をもとに
採否を検討しますが、検討段階で
応募者が提供した情報が正しいかどうかの裏付けを取ります。
応募者が会社側に必ずしも真実だけを言っているとは限らないため、
次のような手法により応募者が
安心して採用できる人物であるかどうか判断できるようになります。
①バックグラウンドチェック(身辺調査)
応募者が申告した情報の正確性を確認するための調査で
学歴や職歴、犯罪歴、反社会的勢力との関係、
破産や金銭トラブルの有無、信用情報などを確認します。
経歴詐称や不適切な行動を事前に把握することで、
会社にとってのリスクを軽減する役割を果たします。
② リファレンスチェック(経歴のチェック)
履歴書や職務経歴書の内容が事実かどうか、
第三者に確認することです。
例えば、今まで働いてきた会社の上司や同僚などに
応募者の働きぶりや職務内容、退職理由等に
相違がないかどうかを確認するものです。
①との違いは、応募者の人物像や実績など、
応募書類からはわからない点を調査し、
会社との相性を推し測るところにあります。
ただし、本人の同意なくリファレンスチェックを行うと
個人情報保護法に抵触する可能性があるため、
必ず応募者の同意を得て実施しましょう。
日本においてリファレンスチェックは
バックグラウンドチェックの中の1つの手法と
みなされることが多いです。
リファレンスチェックができなくても
インターネット等で氏名から検索する、
資格や学歴などは証明書を提出してもらう、等
学歴や職歴、犯罪歴などを確認することができる場合もあります。
内定決定後(入社前)に経歴詐称が判明した場合であっても、
内定通知書前にバックグラウンドチェックや
レファレンスチェックを実施していれば
容易に判明しえた事情であると判断された場合、
内定取り消しが無効となる可能性があります。
裁判になった場合、会社が採用に際し適切な調査を行っていたかどうかを問われます。
リスク回避のためにもこのようなチェックは行なっておきましょう。
■ 経歴詐称の裁判事例
経歴詐称で懲戒解雇の有効性が問われた裁判がありますので
どのような場合に有効なのか無効なのか、を確認していきます。
○正興産業事件:浦和地裁H6.11.10 学歴詐称 解雇有効
自動車教習所で指導員として勤務していた原告である労働者が、
「高校中退」を「卒業」と経歴詐称したことを理由として
懲戒解雇され解雇の有効性が認められた判例です。
【判決】
自動車教習所は公益的な役割を担った施設であり
指導員には高度の技術・知識・人格等を要求され、
また、指導員として人間的な信頼関係を保持する
必要があることを考慮すると、
学歴もその職務についての適格性や資質等を判断するうえで
重大な要素の一つと認められる。
高校中途退学者であることが雇用時に判明していたならば、
指導員見習として雇用せず、
指導員としての職務に配置しなかったと考えられるため、
解雇は有効とされた。
●西日本アルミニウム工業事件:福岡高裁判決 S55.1.17
学歴詐称 解雇無効
高卒以下の学歴の者を採用する方針の会社に、
大卒であることを秘して船舶用ドアの製造現場作業員として
採用された者が懲戒解雇され
解雇が無効となった判例です。
【判決】
事業主が採用面接の際に学歴について尋ねることもなく、
募集広告にも学歴に関する採用条件を明示していなかったこと
勤務状況も普通で業務に支障を生じさせることはなかったこと
等を重視して、経歴詐称を理由とする
懲戒解雇が無効とされた。
○KPIソリューションズ事件:東京地裁 H27.6.2 経歴詐称 解雇有効
システムエンジニア・プログラマーを募集し採用したところ、
職歴および業務遂行能力を偽っていたことが判明し、会社が
当該社員を普通解雇したことの有効性等が認められた判例です。
【判決】
能力に自信を示し、
採用の際に給与の増額を要求、会社に認めさせたにもかかわらず、
実際、プログラムミングはほとんどできなかったということもあり、
解雇を有効とした他、
経歴等詐称が詐欺に当たるとして会社への損害賠償が認められた。
●マルヤタクシー事件:仙台地裁 S60.9.19 犯罪歴詐称 解雇無効
タクシー乗務員として採用されるにあたり、
強盗など刑の消滅した前科5犯を賞罰欄に記載しなかったことから
当該社員の解雇としたが、その解雇が無効となった事件
【判決】
「前科」は賞罰欄に記載すべきであるが、
刑の消滅した前科については、
その存在が労働力の評価に重大な影響を及ぼす特段の
事情がない限り、告知すべき信義則上の義務はないし、
また、3ヶ月間の職歴の稼働期間の違いでは、
労働力評価を誤らせることはできないとして、
解雇を無効とした。
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ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
学歴や職歴を確認するには、応募者に
どのような資料を提出してもらったらよいでしょうか。
【A.1】
学歴でしたら
・卒業証明書もしくは卒業見込み証明書
職歴でしたら、前職の
・退職証明書
・離職票
・社会保険の資格喪失連絡票
・源泉徴収票
資格の確認を取りたい場合には
・資格が証明できるもの(資格者証、免許証、修了書類等)
こちらを入社前に提出してもらいましょう。
就業規則の「採用時の提出書類」にも
「会社が必要とする書類」も記載しておき、
経歴を証明できる書類も提出してもらえるようにしましょう。
☆ ☆ ☆
【Q.2】
経歴を詐称していた労働者を雇い入れているリスクは
どのようなものがあるでしょうか。
【A.2】
特に「免許」等の詐称は業務に多大な影響を与え
その業務ができなくなる、文書偽造等となってしまう可能性が高いです。
また会社が求めるレベルに対して
業務に関するスキルや知識が不足し、
期待している成果をあげられない可能性があります。
