vol.212 整理解雇

新型コロナウイルスや景気悪化等の影響により、
事業が悪化し、経営困難となった場合
最終的な手段として「解雇」があります。
その中でも、このままだと会社の存続が難しいと判断し、
解雇を行うことを「整理解雇」と言います。

今回は、整理解雇の要件や判例を確認していきます。

■ 解雇とは

解雇とは、事業主側からの一方的な労働契約の解除を言います。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)
と定められているため、実際に解雇を行うことは
かなりハードルが高く、慎重に行わなければなりません。

一般的に解雇は労働者に大きな不利益をもたらすため
労働法で要件が厳しくなっています。

日本においては判例上、解雇の原因によって諸説ありますが
整理解雇、普通解雇、懲戒解雇の3つに分けられています。

1.整理解雇
整理解雇とは、業績不振に陥った企業が
存続のためにやむを得ず行う解雇のことです。
倒産を避けるために人員削減をしてコストを下げる目的で行なわれます。
整理解雇が有効になるためには満たすべき要件が4つあり、
整理解雇が裁判で争われると、
この4つの要件をどの程度満たしているかが争点になります。
次項で細かく見ていきます。

2.普通解雇
普通解雇は、労働者の個別事由に基づいて行われる解雇です。
・能力不足や成績不良、勤務不良
・協調性の欠如
・業務命令違反
・情報漏洩
等の事由が考えられます。

3.懲戒解雇
懲戒解雇は、労働者側に会社の規律に違反する行為がある場合に
「懲戒処分」として行う解雇です。
懲戒処分には、訓戒、出勤停止、減給、諭旨解雇、懲戒解雇等の
種類がありますが、その中で一番重い処分となります。

■ 整理解雇の4要件(4要素)

昨今の新型コロナウイルスの影響やその他業績悪化等により、
やむを得ず整理解雇を行う場合があります。
整理解雇を行うための要件について法規定はありませんが、
整理解雇の是非を争う場合に、過去の裁判の判例から
「整理解雇の四要件(4要素)」
と呼ばれる基準に基づいて整理解雇が有効かどうかが判断されます。

1.人員整理の必要性
倒産寸前に追い込まれているなど、
整理解雇をしなければならないほどの
経営上の必要性が客観的に認められること。
業績悪化による安易な解雇や便乗解雇は認められません。

2.解雇回避の努力
解雇は最後の手段であり、整理解雇に至る前段階として
役員報酬のカット、新規採用の停止、
時間外労働削減、一時帰休の実施、配置転換、
出向、賃金の引き下げ、
その他整理解雇を回避するために
会社が最大限尽力することが必要です。
解雇までせずともこれらの手段によって対処が可能であるのに、
いきなり整理解雇に及んだような場合には、
解雇権を濫用するものとして解雇無効とされます。

3.人員選定の合理性
解雇する対象者の選定にあたっては、
客観的、合理的かつ公平な選定が行われなければなりません。
所属部署、担当業務、年齢、勤続年数、
勤務成績、家族構成など、
さまざまな要素から判断されると考えられます。
恣意的な人員選定は認められません。

4.解雇手続の妥当性
整理解雇については、労働者に帰責性がないことから、
使用者は信義則上、労働者や労働組合と
協議し説明する義務があり
納得を得るために力を尽くしていることが必要です。
例えば、説明、協議、納得を得るための手順を
踏まない整理解雇は
他の要件を満たしても無効とされるケースがあります。

ただし、最近の判例では、
この整理解雇の4要件といわれてきたものについて
整理解雇の妥当性を判断する場合に、
4つの要素として総合的に考慮するものであって、
すべての要件を厳格に満たしていなければ
解雇が認められないというものではない、
という判断をするものが多くなってきています。

■ 整理解雇の裁判事例

整理解雇については、裁判で争われているケースが多いため
どの点が争点なのか等を確認していきます。

●マイラン製薬事件:東京地裁 H30.10.31 解雇有効
 出向から帰任した後、業務が喪失したことから
 会社側が労働者を解雇し、整理解雇の有効性が認められた判例です。

【事件のあらまし】
医療営業社員(MR)として働いていた労働者が
日本法人(被告)と他社の業務提携により、労働者は他社へ出向。
その後、当該出向が解除し日本法人に帰任したが
MR職が喪失したことから整理解雇となり、
労働者が解雇不当を訴えた。

【判決】解雇有効
日本法人の他社との業務提携によって
日本法人の営業部門は全て他社に移管され、
それ以降被告の同部門に係る業務は消滅したこと、
被告においてわずかにMR数名が所属していた特販部も
廃止が予定されており、その他にMRが就くべき業務は
被告内部には見当たらないことからすれば、出向の解消時において
MRの就くべき業務が消滅していたといえる(1.人員整理の必要性)。

文書ないし個別面談により
現在社内公募されているポジションの案内・説明等を行ったこと、
工場勤務の出向案を提示したこと等
在籍し続けることを可能な限り支援するものとみることができるため
解雇回避措置を行ったということができる(2.解雇回避の努力)。

原告は直近3年間の評価が社内公募の選定基準に達しておらず、被告は
原告と同等の職務に当たっていた帰任者を一律雇用解消としていること、
被告は1人でも多くの解雇回避のため優秀者を選抜する必要があった、
等から合理性はあったといえる(3.選定の妥当性)。

本件解雇に先立って、全体ミーティング、電子メール、
書面による連絡を通じて
本件業務提携契約の内容、本件解除合意に至った経緯、
判断過程の要旨、MR業務の消滅、本件解除合意の内容、
出向に関する本件選定基準や選定の判断過程、
退職パッケージの内容、社内公募の案内等について、
自らの領知し得る情報について可能な範囲で
繰り返し説明したうえで、
今後の労働者の処遇について相談にも乗っており
更なる協議も試みているのであって、
十分な説明や協議を尽くしていると
みることができる(4.手続きの妥当性)。

以上のことより、整理解雇は有効と判断されました。

●アイレックス事件:横浜地裁 H18.9.26 解雇無効
 会社は業績の悪化にともない、21名を整理解雇した事件。
 整理解雇の有効性が認められなかった判例です。

【事件のあらまし】
会社は売上げの低下に伴う収益悪化を理由に、21名を整理解雇し
解雇対象者の選定は、人事考課成績の低い労働者から、
管理職および代替性の低い労働者と
会社が考える者等を除く形で行われ、
また、整理解雇に先だって役員報酬、管理職賃金削減、
そして有期雇用臨時社員の大多数の要員削減を実施した。
因みに、解雇事由は能力不足であると伝えていた。

【判決】解雇無効
本件に先立ち希望退職募集、臨時社員の全面的削減
一時帰休・出向などおこなっておらず、
これらを踏まえると回避努力は
十分であったとはいえない(2.解雇回避の努力)。

本件の人選で人事考課結果が低いのに
被解雇者から除外される者の選定基準は合理的とは言えず、
選定方法の合理性を是認するのは困難である(3.選定の合理性)。

会社と労働者は2回面談し、
労組とも3回団体交渉を行っているが、
面談で本件解雇が整理解雇であることを明らかにせず、
選定基準について全く説明がされていない(4.手続きの妥当性)。

会社の売上げは前年度までに比して大きく減少し、
毎月約5,000万円から約2億円の経常損失を生じているのであるから、
本件解雇の時点において会社は経営状態の著しい悪化により
解雇は人員削減の必要性は認められるものの(1.人員整理の必要性)、
回避の努力や手続きの妥当性等の点については不十分であり、
解雇権濫用により無効である、とされました。

 ※整理解雇に先立ち臨時社員の大多数の要員削減を実施した、
  とあるが全面的な削減と判断できるほどの規模ではなかったと判断された

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   ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
整理解雇を行う場合の注意点があれば
教えてください。

【A.1】
整理解雇は解雇の1つのため、解雇制限がかかっている方については
整理解雇を行うことができません。
・業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間
 およびその後30日間
・産前産後休業期間およびその後30日間

また解雇予告、解雇予告手当の支払いも必要です。
解雇には変わりありませんので、
普通解雇と同様に解雇予告、解雇予告手当も準備しておきましょう。

人数が多い退職の場合には、通常の手続きとは別に
役所への書類提出も必要となります。
・1か月以内の期間に、30人以上の離職者が生じる場合
  → 再就職援助計画、大量雇用変動届の提出
・45歳以上70歳未満の者が1か月以内に5人以上離職者が生じる場合
  → 多数離職届の提出

厚生労働省 従業員が離職する際に必要な措置
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page06.html

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【Q.2】
会社の業績が悪化し、支店を閉鎖することになりました。
その閉鎖する支店で働いていた労働者を解雇することは
問題ないのでしょうか。

【A.2】
支店閉鎖による解雇も整理解雇になります。
そのため、4要件(要素)をすべての要件を満たして
いなくとも、解雇の回避努力や手続きの妥当性は問われます。
・他の支店への配置転換は可能であるか
・出向等は可能であるか
等、回避努力をして労働者に説明することが必要です。