vol.211 配置転換

会社は、仕事の内容や職種など人事権を保有しており
「配置転換命令権」を行使できます。
ただし、配置転換命令権はあくまでも
就業規則などの範囲内でしか行使できません。
これに反した場合、その配置転換は無効となる場合があるため
その運用を間違えてしまうと、訴訟にまで及ぶ可能性があります。

今回は、配置転換の要件や判例を確認していきます。

■ 配置転換とは

配置転換とは、会社が事業運営上の必要性をもって、
個人の職務内容、勤務地などを長期間にわたって変更することで
人事異動のひとつです。
配置転換ができる条件としては、
就業規則や労働契約に配置転換に関する明記があり、
社員にも周知させていることです(労働契約法第7条)。
この条件をもとに会社は個々の労働者の同意なしに
配置転換を命じることできます。
ただし、職権乱用に当たる場合には配置転換が無効になるため、
注意が必要でしょう。

■ 配置転換の目的

配置転換を行うことによって
会社がどのような目的を達成したいのかを明確にしておくと
期待した効果が得られやすくなり、
そのタイミングも正しく選定することができます。

1.適材適所の人材配置の実現
労働者ごとにスキルレベルは異なり、
その労働者に合う仕事・合わない仕事があります。
適性の低い部署に労働者を配属させた場合、
当然高いパフォーマンスは期待できません。
そのため、社員の職種や部署を変え
適材適所を図ることも配置転換の目的です。
適材を配置することができれば、業務の効果的な実施が実現でき、
時には新サービスの創出なども期待できるため、
企業成長に大きな期待を持てることが、
配置転換の大きな目的の1つになります。

2.人材の育成
配置転換を行うことでさまざまな業務を体感し、
業務知識や経験を蓄積できることは
人材の育成に大きな影響を与えます。
経験値が高い人材が増えることで、
多角的な視点を持って業務に従事することができ、
部署間の連携や業務全体の効率化を図れるといった期待ができます。

3.会社の事業成長や活性化
配置転換を通して労働者が成長し、
新たな視点が加わることで、
既存サービスの改善や新商品の開発にも期待が持てます。
また労働者は同じ環境で働いていると停滞感を覚え
モチベーションが下がる場合もあります。
そのため、配置転換で労働者の活躍の場を
新天地へ移すことにより、
気持ちを一新して業務に臨んでもらうことが可能です。
また受け入れ部署としても
新たなメンバーを迎え入れることにより、
交流が促進されて活性化が期待できるでしょう。

■ 配置転換の手順

配置転換とは、どのような流れで行うのか、
一般的な手順について確認していきます。

1.転換元、転換先の部署や候補者のリストアップ
現在、どの部署で人員不足が起こっているのか、
新規の風をいれるために配置転換したほうよいのか、
など、配置転換の目的を明確にしたうえで
職務に適した人材リストアップをします。
効果的な配置転換を行うためにも、
リストアップの段階で選択肢を絞り過ぎないようにしましょう。

2.内示を出す
内示とは、配置転換の対象となった労働者に対して、
配置転換の事実を内々に通知することをいいます。
正式な発表である「辞令」の前に伝達することになるため、
本人以外に情報が漏れることは望ましくありません。
そのため他の労働者の目につかない会議室等で
上司が本人へ直接伝えることが一般的です。

内示の時期ですが
・転居を伴わない場合、異動2週間前
・家族も含め転居が必要な場合、3~6カ月前
が多いようです。ある程度余裕をもって伝えましょう。

3.辞令
配置転換について正式に社内へ発表する
決定通知(またはその文書)のことをいいます。
会社は配転命令権を有しているため、
辞令そのものは労働者の同意がなくても交付することが可能です。
辞令はイントラネットや社内報に掲載することが多く
現所属部署の解任日と異動先部署への異動日を同日にし、
その部署名と日付を通知します。

■ 配置転換を行う際の注意点

配置転換は労働者の同意を得ることなく
配置転換を命じることができますが
やり方次第では不当とみなされ、訴訟になるケースもあります。

1.就業規則に配転・転勤条項の記載があるか
就業規則に配置転換について明記されている必要があります。
就業規則に記載がない場合、
原則そして本人の同意がなければ
会社は勝手に配置転換を行えません。

2.業務上の必要性があるか
配置転換が人事権の範囲に収まっていても、
「配置転換が業務上必要か」「人員の選定は問題なかったか」
を検討した結果、権利の濫用とされる場合もあります。

3.労働者に著しい不利益が生じないか
労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」
が生じた場合、不当とみなされる場合があります。
個々の事情にも配慮し、不利益がないかどうかを
考えなければなりません。

特に近年の配転は手続論を
非常に重視されるようになってきていますので、
より慎重に行うようにしましょう。

■ 配置転換の裁判事例

配置転換は会社側に人事権があり、
労働者の同意なしでも配置転換が可能ですが、
権利の乱用として裁判で争われているケースがあります。

●東亜ペイント事件:東京地裁 S61.7.14 配置転換有効

労働協約と就業規則に転勤を命じることができる旨の定めがあり、
転勤が実際に頻繁に行われていたという事情の下での裁判で
会社側が労働者を解雇し、配置転換の有効性が認められた判例です。

【事件のあらまし】
労働者が神戸営業所から広島営業所への転勤の内示を
家庭の事業から拒否し、
その後名古屋営業所への異動を内示も拒否したが
転勤命令を発令され、これに従わなかったため、
発令の3カ月後に懲戒解雇された。
労働者が転勤命令と懲戒解雇の無効を主張して提訴した事件。

【判決】
特に転居を伴う転勤は労働者の生活に影響を与えるものであるから、
その濫用は許されないとの原則を示した上で、
転勤命令につき、
①業務上の必要性が存しない場合
②業務上の必要性が存する場合であっても、
当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたとき
③以上に該当しなくても労働者に対し通常甘受すべき程度を
著しく超える不利益を負わせるものであるとき等
特段の事情の存する場合でない限り、
当該転勤命令は権利の濫用に当たらないとの判断基準を示し
転勤命令と解雇は有効と判断されました。

●日本レストランシステム事件:大阪高裁H17.1.25 配置転換無効

採用時に地域限定する旨の合意ができていたと考えられて
配置転換の有効性が認められなかった判例です。

【事件のあらまし】
大阪で4店舗のマネージャーとして担当総括をしていたが、
原価を操作するなどしたことを理由にマネージャー職から降格され
東京に配置転換した。
労働者は本件降格及び配転等が無効であるとして提訴した事件。

【判決】
入社時の募集広告での
「関西地区レストラン調理担当者募集」の記載、
面接で長女に特定疾患があり大阪勤務の希望を述べていること、
これまでの広域異動はまれであったこと等から、
採用時に黙示的に勤務地を関西地区に
限定する合意が成立していたこと、
労働者及びその家族は、長女の特定疾患を会社に伝えていたことにより
本件異動によって相当な不利益を被るものといわざるを得ない
ということから、本件配転命令は権利の濫用に当たると解され
配置転換は無効である、とされました。

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   ここが知りたい! Q&A
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【Q.1】
配置転換を拒否する労働者がいます。
この場合には、どうすればよいのでしょうか。

【A.1】
原則、会社の配置転換命令は拒否できません。
その旨をまず労働者に伝えて話し合いの場を作ってください。
・なぜ配置転換が必要か
・どうしてあなたが配置転換の候補に挙がったか

等を丁寧に説明してください。
それでも納得しない場合には、最悪の場合、
懲戒の対象となり、解雇される可能性もある旨も伝えましょう。

できる限り、気持ちよく納得して次の仕事に臨んでもらいたいため
労働者と話し合いの場を設けることが大事です。

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【Q.2】
配置転換でトラブルにならないように
今のうちから会社としてやっておくことはありますか。

【A.2】
まずは就業規則を確認し、配置転換が可能の記載があるかどうかの確認をし、
記載がないようでしたら、早急に就業規則を変更します。
配置転換が必要な場合、

・配置転換の必要性の説明
・人員選定の説明

が正しく伝えられるようにまとめておきましょう。
今後入社する労働者への面接の際には、
「配置転換あり」の説明をすることも忘れないでください。

また正社員ではなくアルバイトやパートの方については
就業規則や労働契約書等で配置転換あり、とされている場合は
アルバイトやパートにも配置転換は可能です。
ただし勤務地を固定している場合が多いため、
人事異動で他部署に異動することは問題ありませんが
勤務地を変更するような配置転換は極力避けたほうがよいでしょう。